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ぼくは戦争を知らない⑫

夏休みも半分が終わり、あまりの暑さに家でゴロゴロしていたぼくのスマホに一本の着信があった。


「はい、もしもし」

「うさぎ!じーさんが死んだ!」

電話の主は先生だった。


「え?」

「うちに来てもらってもいいか」

「はい」



ぼくは急いで自転車に乗って、お邪魔したことがある先生のアパートに駆けつけた。

そこから、自動車で十分くらい走ったところに彼の自宅がある。


「先生、隊長…おじいさんが亡くなったって…」

「ああ!心臓が急に止まったらしい」

家の一番奥の広い和室に、お葬儀の用意がされていた。


まだ、お布団に寝かされたままの、おじいさんの姿。

先生のお母さんが、枕元の場所をすすめてくれた。


「おじいさん…」

普通に眠っているみたいに、穏やかな顔をしている。



先生はどこからか、手紙を持ってきた。

「お前宛だ」

「ぼく宛ですか?」


ぼくは白い封筒を受けとる。

中から出てきたのは、やはり白い便箋だった。



『羽咲可南殿

こういうかたちでの挨拶は避けたかったが、

もう時間がないので、こうして文にしたためてみる。

短い時間のみの面会であったが、

私に昔の幸せを届けてくれて有り難う。

幸せになれ。

今度はあの世で、酒でも呑もう。

吉田(矢草)秀』



ぽたぽたと涙が落ちて、便箋にしみを作った。

顔をあげて正面を向いたら、遺影の隊長が笑っていた。


「お迎えに来てもらったんですね、隊長」

「ああ。今頃、あの兵隊さんたちと、ばーさんと再会してるんじゃないかな」

「うん…」

ぼくはそのまま、しばらく泣き続けていた。

そんなぼくの背中を、先生の大きな手がずっとさすってくれていた。



仲間を失い、名前を失いながら、後世へと血を残してきたけれど、その胸に蘇るのは、いつでも後悔と、噛み締めた血の味だったそうだ。



そんな苦しい記憶から、もう…解放されてもいいだろう。



ひらひらひら

零れ落ちる時間

貴方と出逢えた

貴重な時間

夏の暑い日に

さらさらさら

零れ落ちた…


ぼくらは戦争を知らずに生まれ、育った。

平和を守り続けることが、ぼくらの使命。


あの時代を忘れないで、という警告。


ぼくらは、ぼくらの時代に、あの日を繰り返してはいけないから…。


どうか、隊長たちに誇れる、平和な日常を送れる国に、世界にできますように…。



        《完》

ご覧いただきましてありがとうございました。

うさぎのタイムスリップ?話の第一段はこれにて閉幕です。


学生時代に、苦手な近代史と向き合い、出征した祖父や大叔父から話を聞いて、作ったお話でした。

一度自費出版という形で世に送り出しましたが、今回こうしてアップできたのは嬉しかったです。

まだまだ、平和とは言えない時代ですが、どうか悲劇が繰り返されませんように、祈るばかりです。


第二段もお届けできますように。

ありがとうございました。

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