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石に向かって地べたに座るとちょうどリリー様を少しだけ見上げる形になる。
リリー様はほんのりキラキラしながら忙しなく動いていて、よく見ると伸びたり縮んだりするし、花びらがフルフル震えたりもする。
なんだろう。
なんか癒されるな。
「んで、国の守り神ってなに?」
リリー様の可愛さにニヨニヨしながら聞くと、リリー様は横にグインと倒れて虹のような形になりながら「よくわかんない。」と言った。
「え〜〜。よくわかんないってなにさ。守り神なのにわかんないでいいの?」
「守り神なのは間違いないけど、守り神が何かはよくわかんないわね。」
「国守ってるんじゃないの?」
「別に何もしてないわ。」
「ええ〜。」
「だって何かする機会がなかったんだもの。」
「ええ〜。」
何度目の「ええ〜」だよってくらい「ええ〜」しか言ってないわ。
てか機会って?
神様なのにワンチャンとかやっちゃうの?
リリー様は葉っぱを顔に添えてグイングインと左右に揺れながら何か考えている様子だったけど、急にピタッと動きを止めて両方の葉っぱを私に向けた。
「貴方の言う事しかと受け止めたわ!」
「なんも言ってないけど…?」
「確かに守り神として何もしてこなかったのはよくなかったわね。
これから守り神、動きます!」
「はあ。」
「だから貴方、私の依代になりなさい。」
「依代?」
「貴方の中に私が入り込むってことよ。実体があった方が何かと便利だもの。」
「霊に取り憑かれる系のアレってこと?」
「それとは違うわよ。貴方の意識はしっかり残っていて、私を頭の中で感じるみたいになると思うわ。」
「うーん。いいけどさー。
リリー様の可愛い姿を目の前に見れないのは残念だなー。」
「ま、まあ!貴方が残念だと言うならこの姿を留めるのもやぶさかではないわね。」
クネクネクネクネ。
はー、可愛い。
結局リリー様は石の後ろに生えてたタンポポを依代にすることになった。
引きちぎったタンポポを石の上のリリー様に重ねると、シュワーっとリリー様がタンポポに重なって、ふたまわりくらい大きくなって顔のついたタンポポになった。
これはこれで可愛いけど手の代わりの葉っぱがなくなっちゃったなぁと思っていると、リリー様は茎からニョキっと葉っぱを生やした。
やっぱり手は必要よね。
「リリー様と一緒にいれるの、嬉しいな。触れるようになったし。」
リリー様に頬をすりすりするとリリー様も嬉しそうにクネクネした。
「ここから動くのは初めてで私もなんだかワクワクするわ!」
それから私は屋敷へ戻りながらリリー様の話を色々聞かせてもらった。
リリー様はまだ生まれて日が浅いそうで(って言っても数年は経ってるらしい)、自分が守り神だという確信はあるけど、どんな力があるのかとか、何をしなくちゃならないとかはよくわかっていないんだって。
でもなんとなく、必要な時に必要な力を出せるはずとぼんやり感じるらしい。
根拠のない自信じゃないといいけど。
で、守り神は色んな所に色んな姿でたくさん存在していて、たまに遭遇して話をしたりすることもあるんだとか。
リリー様も今まで何回か他の守り神に会った事はあるけど、みんな別に何かしてる様子ではなかったって。
リリー様がそろそろここを離れてあちこち見て回りたいと思っていたところで、今日私と出会ったらしい。
リリー様は基本ひとりで暇だから、人が近くに寄ると一方的に話しかけたり、言葉を真似して遊んでいたみたい。
それに私が反応したもんだから最初はすごくびっくりしたそうだ。
そもそも守り神を見たり感じたり出来る人はすごく少なくて、私みたいに普通に話せる存在はレアだって言ってた。
ただ、タンポポの姿をしたリリー様となら話せる人は増えるらしい。
そうは言っても花が話すのは常識的におかしいから普通は受け入れられないだろうって。
リリー様のいた石は霊山?とか言うところから掘り出されてきた石で、それこそ守り神的存在としてあの集落の入り口に置かれていたのだそうだ。
そんなのに腰掛けるなんて、なんかリリー様にも悪いことしたけど、集落の人にも悪いことしちゃったかも。
リリー様がいなくなっても集落は問題ないのか聞いたら、石自体にもパワーがあるから無問題なんだとか。






