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その石は斜めに切られた太い柱のような形をしていて、表面は滑らかでとっても綺麗だった。
苔とか泥とか付いていなくて、ゴツゴツもしてないから座るのに最適!
そう思って腰を下ろした途端、パアアアアアーっと光の膜のような物が私と石を包み込んだ。
「うおっ。」
びっくりして思わず声を上げると、「うおっ」と同じ言葉がお尻の下から返ってきた。
「えっ?えっ?えっ?」
「えっえっえっ」
「なになに?」
「なになに」
やっぱり同じ言葉が返ってくる。
でも声は私の声じゃなくて小さい子供みたいな声だ。
こだまかな?こだまじゃないよ…
大震災のトラウマになりかけたCMが、ふと頭を過るけど、ほんとになんだろう。
慌てて石から降りて、石をじっくり観察してみると、ちょうど私のお尻が当たっていた辺りにひまわりみたいな模様がぼんやり浮き上がっていた。
「もしもーし」
「もしもーし」
こだまはやっぱりそのひまわり模様から聞こえる気がする。
人っこ一人いなくて、ちょっと心細くなってきた所だったからなんか他人の声が聞こえるだけで余裕が出てきて、イタズラ心がむくむく沸いてきた。
「ブスバスガイドバスガスバクハツ」
「バスバスガイドばすがすばくちゅ」
ちょっと噛んだな。
「 東京特許許可局局長」
「とうきょうとっきょきょきゃきょきゅ…」
「あはははは!」
面白くなって声をあげて笑うと、ひまわりがまたパァっと光って石の上から起き上がってきた。
なんて言うか、ホログラムみたいな感じで立体感があんまり無くてペラペラしてる。
しかも浮かび上がったひまわりには目と口がついていた。
「もうー!なんなの貴方!意地悪ねっ!」
ひまわりはひまわりなのに表情豊かに口を尖らせて私に文句を言ってくる。
「ひまわりちゃん喋れるの?てかこれこの世界のデフォ?すごいー!!」
興奮して手を伸ばしてもひまわりちゃんには触らなくて手がスカスカ通り抜けてしまう。
「貴方、何言ってるかわからないわ!私の上に座るなんて無礼よ!謝りなさい!」
「ごめんねー。知らなかったの。薄暗くてよく見えなかったもんだから。本当にごめんなさい。」
深々とひまわりちゃんに向かって頭を下げると、ひまわりちゃんは照れたようにくねくね動いて
「わかればいいのよ。意外と素直じゃない。」
と言った。
なんちゃらロックっておもちゃに似てる。
音楽に合わせてクネクネするひまわりのあれね。
そう、音楽に合わせて…
「オーブレーネリ、あなーたの、おうちはどこーっ」
ちょっと歌ってみるとやっぱり微妙にくねくね動いて面白い。
なんでこの歌が出てきたのかは自分でもわかんないけど。
「なに突然歌ってるのよ!びっくりするじゃない!」
「ごめんごめん。ひまわりちゃんがあんまり可愛かったもんだから、嬉しくなっちゃって。」
「ま、まあ、私が可愛いのは確かだけど。」
ひまわりちゃんはひたすらクネクネしてる。
「ねえ、ひまわりちゃん、あなたは何なの?ここで何してるの?」
「まず!わたしは!ひまわりちゃんなんて名前じゃないわ!」
ひまわりちゃんは少しのけ反って私を軽く睨みつけた。
「私の名前はリリーよ!」
「ええ〜…リリーィ?」
「そう!私の事はリリー様とお呼びなさい!」
ひまわりなのにリリーとはこれ如何に…
まあ、でもそれが名前って言うなら仕方ないよね。
「リリー様、リリー様はどう言う存在でなんでここにいるの?」
さっきと同じ質問を投げかけると、リリー様はフフンと笑った。
顔の真ん中が少し飛び出てる気がする。
鼻が高くなってるって事かな?
鼻高々?のリリー様は私に右の葉っぱを向けて尊大に言い放った。
「私はこの国の守り神よ!!!」
なんとなくノリで「ははぁーっ」と言いながら土下座をすると、リリー様は「ほっほっほ。頭を上げなさい。」と言った。
完璧水戸黄門ごっこだね。
リリー様水戸黄門知ってるのかな?