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朝起きると隣にはお母さんの温もりがあって、また幸せな気分になる。

しかもお腹がすいて目が覚めたわけじゃない。

いっつもなら日が昇る前からお腹がすいて目が覚めてそれを誤魔化すために水を飲んで…

我ながら可哀想すぎる。


そろそろ屋敷から朝ごはんという名の残飯が運ばれてくる頃だ。

どんな食べ物も無駄にすることはできないので私は渋々布団を出て玄関に向かい、外に置いてある残飯を回収する。

これはお昼に食べて、朝は昨日の残りを食べよう。

昨日の残りはそのままトレーの上で布巾をかけて置いてあるので、それをお母さんの部屋に運んでまた一緒に食べる。

不衛生?知るか。こっちはずっと残飯食って生きてきてんだ。これでも十分ご馳走なんだよ。

前世の常識に悪態をつきつつ1日経ってもやっぱり美味しいスープとパンを2人で味わった。


ずっとお腹がいっぱいだといつもよりも元気な気がするし、気持ちも前向きになっている感じがする。

暖かい物を食べられたら、もっといいんじゃないかな。


「お母さん、このスープどうにか温められないかな。」


「そうねぇ、キッチンに火を入れられれば良いのだけれど。今日はキャシーのおかげで少し調子もいいし後から見に行きましょうか。」


「うーん。」


私は首を捻った。

2回ご飯を食べたくらいで戻るほどお母さんの衰弱っぷりは軽いものではなかったと思う。

多分まだ起き上がるのは無理だ。


「もうちょっと元気になってからお願いするね。」


そう言って私は2人分のトレーを下げて、歯を磨いてから自分の部屋に戻ることにした。

昨日の夜の分も念入りに歯磨きはした。

今まではそこまで気になってなかったのに、前世の記憶の影響だと思う。

ちょいちょい今の生活への抵抗感が出る時がある。

そんなこと言ってたらここでは生きていけないよ!


自分を叱咤して部屋に戻り、机の引き出しを開ける。


「ジャジャーン!DESUノート〜!」


私は猫型ロボット風の声音を作り恭しくノートを掲げた。

今日書き込むことはもう決めてある。

お母さんの健康だ。


昨日は逆剥けをむいて血を出したが逆剥けはもうない。

瘡蓋はあるけど、多分これを剥がしても字をかけるほどの血は出なそう。

そしてこの離れにはスプーンやフォークはあるけどナイフはない。

自分で噛み切って血を出すほど私は根性ないし。


色々考えた結果昨日もらった苺の汁で書くことにした。

みかんやりんごはあんまり色がつかなさそうだし、スープもビーフシチューとかなら行けたかもしれないけど琥珀色のコンソメスープだし。 


いちごは残り一つしかないので失敗はできない。

食べ物を無駄にすることもできない。

私はちょっとずつ苺を齧って汁が出たらそれを指につけ文字を書いた。 


『ハハゲンキ』


書き込めたのはその五文字。今回もギリギリだった。そして思ったよりも苺の汁は色が薄い。

色が薄いと効果も薄いような気がしてしまう。

気のせいだろうし、効果があるのかもまだはっきりしないんだけど。

しかもカタカナだから戦時中の電報みたいになってる。でも意図は伝わるはず。たぶん。


それにしても何とか楽に書き込める物を入手出来ないもんかな。

今度逆剥けができたら『ペン』とかきこんでみてもいいかもしれない。

あと、やっぱり時々は『ごはん』も書く必要があるよね。


私はワクワクした気分でノートを閉じてまた引き出しにしっかり仕舞い込んだ。


ノートの効果は私の心には確実にあるな。

やっぱり書き込んだ後はちょっと気分がいいんだよね。


昼間はさすがに門番がいて屋敷を出るのは止められるだろうから夜になったらまた出て行ってみよう。今度はもう少し遠くまで歩けるはずだし、何か出来る仕事とか見つかるかもしれないし。

ああ、ノートに『くつ』もいつか書き込みたいな。




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