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離れのドアを開けて中に入るや否や私はバスケットの上にかけられた布を引っ剥がして中を確認した。
りんごにみかんにいちご。それにパンとミルクの入った瓶。こっちの瓶にはスープのようなものが入っている。焼いた肉や野菜の入った器もある。
私たちが普段食べているご飯の1週間分はありそうな量だ。
質はもちろん段違いにこっちがいい。
私は今世一のご馳走を前に小躍りしそうになった。
体力消耗するからしないけど。
まずはお母さんに栄養をつけさせないといけない。
でも消化の良いものじゃなきゃ危ないよね。
バスケットの中からスープとパン、いちごを選んでトレーに載せてお母さんの部屋へと向かう。
もう夜中だけど、朝までなんて待てないし、食べた方がぐっすり眠れるはず!
部屋に入るとお母さんは起きていて、私を見て驚いたように目を丸くした。
「こんな時間にどうしたの?しかもその食べ物は?」
「親切な人がくれたの!お母さん食べて食べて!」
「キャシーは食べたの?私よりもまずあなたが食べなくちゃ。成長期だもの。」
「私の分もたくさんあるから大丈夫!これはお母さんの分だよ!」
「そう…じゃあ頂くわね。でも私だけ食べるのは寂しいから、キャシーも自分の分を持ってきてここで一緒に食べてくれる?」
お母さんは多分私が自分の分もお母さんにあげようとしてると思っているらしく、私が目の前で一緒に食べないと安心できない様子だ。
「わかった!今私の分も持ってくる!」
私は大きく頷いて急いで自分の分をトレーに乗せてお母さんの部屋へ運んだ。
お母さんはまた目を丸くして「本当にたくさんあるのね…」と呟きながらスプーンを手に取った。
パンは今まで食べた中で一番柔らかく、スープは今まで食べた中で一番具沢山だった。
ちなみに今世でいちごは一度も食べた事がない。
ずっとわずかなご飯しか貰えていなかったせいか、私もお母さんも結局たくさんは食べられず、よそった量の半分くらいでお腹がいっぱいになってしまった。
お腹がいっぱいになるって感覚も初めてかもしれない。
「うわー。お腹がいっぱいってこんなに幸せなことだったんだ。」
思わず呟くとお母さんが悲しそうに眉尻を下げた。
「そうね。幸せな事は沢山あるのにここにいると何も教えてあげられない…私が弱かったばっかりに。キャシー、ごめんなさいね。」
やばい。余計なこと言っちゃった。
私は慌ててぶんぶん首を振ってお母さんの腰に手を巻きつけた。
「お母さんといるのが1番の幸せなの!だからお母さん早く元気になって!」
「ええ。ありがとう、キャシー。お母さん元気になれるように頑張るわ。元気になったら一緒にこの屋敷を出て行きましょう。そこで楽しい事をたくさん教えてあげるわね。」
「うん!お母さんありがとう!!」
ぎゅーっと抱き付く私の頭をお母さんは優しく撫でて髪を指で梳いてくれる。
最近は悲観的な事を言うことが多かったお母さんが前向きになっている。
やっぱり人間食べることと寝ることは重要なんだ。
私も少しずつ体力を付けて食料を調達して来れるようにしなくっちゃ。
出来ればたまにデリーさんにあってお恵みしてもらえたらなおさらいい。
「今日はここで寝てもいい?」
幸せな気分も手伝って、上目遣いでお母さんにおねだりしてみる。
病気になってからはずっと別々の布団で寝ていたけれど、やっぱりひとりは寒いし寂しい。
お母さんはにっこり笑って私を布団の中に招き入れた。
歯磨きしてないけど、まあいっか。
久しぶりの一緒の布団。
やっぱりお母さんと一緒はあったかくて安心する。
なんだかんだ言って今の私は8才、まだまだ甘えたい盛りだもんね。
それにしても今日は本当にツイてたな。
何でデリーさんはあんな何もないところ歩いてたんだろ。
こんなに都合よく食べ物もらえたのはDESUノートのおかげなのかもしれない。
明日また何か書き込んでみよう。
そんな事を考えながら私は満腹後の睡魔に飲み込まれた。