3
こっそり門を開けて外に出ると、あたりは真っ暗で周りには建物なんてなかった。
食堂どころかお隣の家さえだいぶ遠い。
秒で心が折れそうになったけど、どうにか自分を励まして歩き始める。
でも栄養失調だし裸足だし、やっぱりすぐに動けなくなる。
道端に蹲ると道の脇の雑草が目に入った。
ツクシと蕗の薹だ。
これって食べれるんじゃなかったっけ。
美味しくは無さそうだけどまずは栄養取らんとどうにもならん。
今日はこれ取って帰ろう。
私がせっせとツクシと蕗の薹をかき集めていると、人が来る気配がした。
うわ、やべ。隠れないと不審者じゃん。
そう思っても体は素早く動かない。
アワアワしているうちに、その人影はあっという間に私のところまで来てしまい、私の前で足を止めた。
「えっ、女の子?」
人影は若い男の人のようだ。こざっぱりした格好をしていて、ヤクザっぽい雰囲気はない。
いや、ヤクザなんてこの世界にいないのはわかってるけど、悪い人独特の嫌な感じがないってことね。
「ぐぅぅぅー」
返事の代わりにお腹が鳴った。
「あはは!お腹空いてるの?」
「ごはん…」
やっと出た言葉はそのひと言。
必死さ伝わって!
憐れんで!!
私は全身全霊の力を込めてその人を見つめた。
「ごめん…何も持ってない。」
ガーン。本当に頭にガーンって音が鳴った。
多分顔もガーンってなってたと思う。
「必死だな…なんかガリガリだしな…しかも裸足じゃん。え、捨て子かなんか?」
男の人はぶつぶつ呟きながらしゃがみ込んで私に視線を合わせた。
「うちに来たらご飯あるから、うちに来る?」
ご飯は食べたい。ちょっと涎が垂れた。
でもお母さんがいるこの家からあまり離れるのは気が引ける。帰って来れなかったら確実にお母さんは死んじゃうし。
私がプルプル首を横に振るとその人は驚いた顔をした。
「いいの?そんなにお腹空いてそうなのにいらないの?」
断るとは思ってなかったんだろうなぁ。
私だって反射で頷きそうになったわよ。
「病気のお母さんが、いるの。」
なんか結婚詐欺師のような台詞を言ってしまったけど、色々説明するのはめんどくさい。お腹空いてるし。
「うーん、そうか。お母さんがいるからここから離れたくないって事?」
こくりと私が頷くと、その人は立ち上がってぱんぱんと膝の汚れを払った。
「じゃあ、持ってきてあげるよ。少し時間がかかるけど待ってられる?」
こくこくこくこく。私はバンギャ並のヘッドバンディングで喜びを表した。
「それじゃあここで待っててね。」
そう言い残してその人はすごい速さで走り去っていった。来る時も早いと思ったけど帰る時は倍早いな。
男の人を待ってる間も私のお腹はなり続けている。
なんか暇だし、やっぱりお腹も空いてるから、さっき集めた蕗の薹を齧ってみた。
苦っ!まっず!
場所のせいかと花も葉っぱも茎も齧ってみたけどどこもまずい。
ツクシは頭?の部分は粉っぽい上に苦いし茎もやっぱり渋苦い。
毒がなくてちょっとでも栄養あるなら食べるけど、茹でるくらいはしないとこれは無理だな。
とりあえず食べるのは諦めて、持って帰るためにスカートの裾を縛って袋替わりにしてそこに纏めておいた。
どれくらい待ったか、ちょっと眠たくなってきた頃に男の人は戻ってきた。
「お待たせ〜」
軽やかに走ってきて、また私の前にしゃがみ込む。
手には大きめのバスケットが下げられていて、そこに食べ物が入っていると私の本能がつげている。
もうバスケットから目が離せない。
「今食べる?持ってく?」
「持ってく。」
「ちょっと重いから僕が持っていってあげるよ。お家はどこ?」
指をさした場所はほんの200メートルもない。
本当にたいして歩けなかったのね。
「テンダー家?うわ、訳ありっぽいなー。じゃあ門の前までね。」
「ありがとうございます。こっそりでお願いします。」
「あれ。けっこうちゃんと喋れんのね。オーケーオーケー。こっそり行こうな。」
家を出た時は重かった体もご飯につられて少し軽い。
そもそもすぐ近くだったので門にはあっという間に着いた。
「はいどうぞ。」
男の人にバスケットを手渡してもらってから私は深々とお辞儀をした。
「この御恩は忘れません。お名前を教えてくださいますか?」
「気にしないで。僕はデリー。お嬢ちゃんのお名前は?」
「キャサリン、です。バスケットはどうしたらいいですか?」
「別にいらないから、そのまま捨てちゃって。それじゃあ、元気でね。」
「デリー様、本当にありがとうございました。」
私はまた深々とお辞儀をして門を通り抜け、離れに帰った。
バスケットはものすごく重くて、途中からは地面に置いて引きずった。
中のご飯を想像して私は満面の笑みを浮かべた。
神様仏様デリー様ありがとう!!