18
3日後の夜、約束通りデリー様はまたたくさんの食べ物が入ったバスケットを持って来てくれた。
落ち合ったのは最初に会ったツクシと蕗の薹が生えてたあの場所だ。
デリー様はバスケットと一緒に小さな茶色い靴を一足カバンから取り出した。
「ちょっとサイズがはっきりしなかったから大きいかもしれないけど、紐で縛れば裸足とか布とかよりはマシだと思うから。」
そう言いながら慣れた手つきで靴を履かせてくれるデリーさんを見てると、こうやってマリオ君のお世話をしてきたんだろうな、優しいお兄ちゃんなんだろうなって、ホワホワしたあったかい気持ちになった。
トントンと地面を足で叩いてみて久々の靴の感触に嬉しくなる。
ノーストレス!!
ほんとにね、靴って存在をを知っている状態で裸足で地面を歩くのってすごいストレスだったんだよ。
結構痛いし、何踏むかわからないから気を使うし。
貰えるなんてほんとラッキー。
DESUノートに靴って書いたんだっけかな。
なんにしろ欲しいものの結構上位だったからありがたい。
深くお辞儀をして全身全霊で謝意を示す。
「いつも色々本当にありがとうございます!
お母さんもとても喜んでいて、お礼を言いたいって言ってました。
そのうち会ってもらえるようになるといいなあ。」
「どういたしまして。キャサリンちゃんとお母さんの役に立てたなら何よりだよ。
初めて会った時よりも元気になってて僕も嬉しいよ。」
デリー様はニコニコしながら私の頭を撫でてくれる。そんなデリー様の顔を一生懸命見上げながら私は図々しくも更なるお願いをするタイミングを見計らっていた。
この3日間、デリー様にもらった食料といつもの残飯で栄養をとりながら、私とリリー様とお母さんは、現状を変えるためにどうすべきかを話し合って来た。
私がフラフラ出歩いても誰も気が付かないくらいだから、たぶんお母さんの体力が付けば屋敷を脱出することは結構簡単だと思う。
問題はその後どうするか。
お母さんはこの街出身じゃない上に嫁いできてからもほとんど家から出たことがないそうだから、まずは私が土地勘を身につける必要がある。
そして、逃げた後に生活する資金を作らなくちゃいけない。
資金が作れなかったら、人脈を。
とにかく、場所を知って基盤を作って味方を増やす必要がある。
この街を知ると言っても1人夜中にウロウロするよりはデリー様に案内してもらった方が効率がいい。
時間は取ってしまうけれど、デリー様なら引き受けてくれるんじゃ無いかと半ば確信してる私がいる。
とはいえ、ずっとお世話になりっぱなしの状況でさらにお願いするのは気が引けるのよー。
せめて何かお返しが出来るなら頼みやすいのに私には何も無いんだもん…
なかなか言い出せなくてモジモジしているとデリーさんはしゃがんで視線を合わせてくれる。
「キャサリンちゃん?どうしたの?」
「あの、えっと、あの…」
「うん?」
優しい瞳で見つめられて少し赤くなった私は大きく息を吸い込みものすごい早口でデリー様にお願いを伝えた。
「いまバスケットを置いてくるのでその後少しだけでいいから私にこの街を案内してくれませんかっっっ?」
なんかね、デートに誘ってるみたいで元JKの乙女心が顔を出して恥ずかしくなるんだよね。
前みたいにもう死にそうなギリギリ感があるとそれどころじゃ無いけど、今はちょっと心に余裕が出て来てるんだろうな。
「もちろんいいよー。待ってるからいっておいで。」
デリー様はニコニコしたままあっさり了承した。
ほんと、この人どこまだ優しいんだろ。
私の前世のお母さんもほぼ天使ってくらい優しかったけど、デリー様もタイ張るくらいだな。
前のお母さんは浮世離れしてたけど、デリー様はちゃんとした大人で地に足がついていて、それでいてこの優しさを持ち続けてるんだから凄さで言えばデリー様の方がすごいかもしれない。
そんなことを考えながら、私は最大限急いでバスケットを運び、デリー様の元に戻った。
とはいえ相変わらずバスケットは引きずって運んだし、ガリガリの子供の私だからたかが知れていたけれども…
「行ってみたいところとか、知りたいこととかは何かある?残念だけどもう夜だからお店は開いてないと思うけど、場所の案内くらいは出来るよ。」
デリー様は左手で私の右手を握って隣をゆっくり歩きながら私に尋ねてきた。
優しくて紳士。そしてイケメン。
デリー様、完璧です。
ちょっとキュンとしてると頭に乗ったリリー様が何かを察して葉っぱで私の旋毛を叩いてくる。
「今日はまだ行ったことのない左の道か、デリー様の家の周辺を見てまわりたいです。」
「そっか。左は騎士団の寮と練習場があるだけだから行く必要はあんまり無いと思うんだよね。
キャサリンちゃんに必要なのはうちの方の街じゃないかな。」
騎士団とかあるのね。
あのクソ親父領主みたいだから、騎士団は将来的には敵になる可能性の方が高い気がする。
全く知らないより知ってた方がいいけど、今でなくてもいいか。
「じゃあ、デリー様のおうち方面で。」
「ふふふ。かしこまりました、お嬢さま。
マリオにも会ってってくれたら喜ぶんだけど。」
「よろこんで!」
私とデリー様は珍しく存在感の薄めなリリー様を頭に乗せたまま夜の道を歩いて行った。




