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離れに着くとお母さんが起きて待っていてくれた。

起きていられる時間は長くなったけど、しばらく寝ついていたから体力はまだ全然回復してないようで、少しずつ動いてリハビリしているみたい。

お母さんに心配をかけるのは本意ではないけど、今はそんなこと言ってられないから仕方ない。


「お母さん、ただいま。」


お母さんにギュッと抱きつくと、お母さんも抱きしめ返してくれる。


「おかえりなさい。今日はどこまで行ってきたの?怖いことはなかった?」


心配そうに私を覗き込むお母さんに今日あったことを話すと、お母さんはいちいち驚いたり笑ったりしながら相槌をうって楽しそうに聞いてくれる。

こんなふうに話をするのも体力が必要だから、デリー様にご飯をもらう前はなかなか出来なかったことだ。

頭の中で後光の差したデリー様に手を合わせていると、お母さんも同じ気持ちだったらしい。


「デリー様には感謝しても仕切れないわね。どうやってお礼をしたらいいのかわからないわ…」


そう言って頬に手を当てて首を傾げている。

そんな仕草をするお母さんは、窶れていてもやっぱり美人で、どうしてこんな優しくて綺麗な人を大事にできないんだろうとクソ親父への嫌悪感が半端ない。


「お母さんはどうしてこの家を出ていかなかったの?」


ふと漏れた疑問がなんだかお母さんを責めているような響きを含んでしまった感じがして私は慌てて首を振った。


「違うの。ごめんなさい。なんでもないの。」


「謝ることはないわよ。この間も聞かれたものね。ちゃんとお話ししましょうか。


前にも話したと思うけど、私は両親がほぼ同時期に亡くなってしまって、父の弟に当たる叔父一家が家に来ることになったの。

その頃私はまだ13歳で両親が亡くなったショックもあって何も考えることができなかった…

叔父家族は最初は優しかったから、言われるままに書類にサインをして気がついたら家は叔父のものになっていたし、私はメイドのような仕事をさせられるようになっていたわ。

14歳から学園に通うはずだったけれどそれすらさせてもらえなくて、私は外の世界をほとんど知らずに過ごしていたの。


子供の頃は貴族は家庭教師についてもらって基本的な勉強はするから、文字の読み書きはできたし、家にある本をこっそり読んだりして…

家族にいじめられるお姫様が魔法使いに変身させてもらって舞踏会に行って王子様に身染められるお話なんかを読んで私にもいつか王子様が、なんて夢見たりもしたものよ。」


ドアマット…ドアマットヒロインがここにいる…


「16歳の時に叔父様に縁談が決まったと言われて貴方のお父様にお会いしたの。

お父様はその時23歳で、すらっとして優しげなお顔立ちで、私は王子様が助けに来てくれたのだと本当に天にも昇る気持ちになった。

でもこの家に嫁いできてわかったのだけれど、それはただの政略結婚だったわ。

お金目当ての叔父と爵位目当てのテンダー家…

お父様には愛する方がいて私を疎ましく思ってらっしゃった。

仕方なしに初夜の義務だけは果たされて、幸い私はそれでキャシーを授かって。

それでもまだ前男爵夫妻がいた頃はよかったの。

お父様はご両親には逆らえず、私にもそれほど酷い態度はとることはなかった。

ただ無関心なだけで。

でもあなたが2歳の頃、前男爵夫妻は馬車の事故で亡くなってお父様がこの家を継ぐことになってから、色々なことが変わり始めた。


お父様はずっと恋人関係だった方をこの家に呼び寄せて私をこの離れに追いやってしまった。

その方は5歳の女の子を連れてきたのだけれど、その子はお父様の子ではなかったの。

私は離縁をお願いしたのだけれど、血筋は残したいと思っているようで、キャシーは渡さないと言われた。

出て行くならお前1人で出て行けと。


でもお父様が嫌っている私の娘であるキャシーが大切にされるとは思えなかった。

恋人との間に子供が生まれたらどうなってしまうか…

そう考えると私は、キャシーを置いて出て行く気にはとてもならなかったのよ。


それでもキャシーがあれば私は幸せだったわ。

あなたがいるだけで他には何も要らなかった。

大人しくこの離れに引きこもっていたけれど、半年前にお父様の恋人が妊娠してから、今まで以上に蔑ろにされていって、食事すらも満足に与えられなくなって、私は体を壊して。

何も考えられなくなってしまっていたのね…

大事なキャシーすら失うところだったと先日ようやっと気が付いたのよ。」


お母さんが不幸すぎて泣ける…

私に話さなかったのは、私のせいで出ていけなかったからなんだ。

私が気に病むと思って。

下世話な想像したあの日の自分をぶん殴りたいわ。

でもお母さんの愛情はすごくすごくわかったから、これからは私がなんとかする!


私はそう決意して両拳を握りしめた。





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