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「すげー!守り神って、あの守り神?」
マリオくんが薄茶の大きな目を更に大きくしてリリー様に顔を近づける一方で、デリー様は少し後退りした。
2人の反応になんだか変な感じがして私が首を傾げると、リリー様も同じ方向に首を傾げていた。
「あの、って?」
「だから、あの守り神だろ?聖書に出てくるやつ!」
「聖書?」
「知らないの?」
「知らない。」
私とマリオくんのやり取りを見ていたデリー様は、これまでの私の様子から何かしら察したようで、マリオくんの肩に手を乗せて軽く引き寄せた。
「キャサリンちゃんは、なんていうか、箱入り娘?だから、知らない事が多いんじゃないかな?たぶん?」
デリー様の気遣いに満ちた表現に乾いた笑いを浮かべて私は曖昧に頷いた。
「たぶん、私は常識とか全然知らない。なんならリリー様も知らなさそう。」
デリー様はうんうん頷きながら、部屋の奥に行き、小さな木の椅子を持ってきてテーブルの横に置いた。
「これなら遠慮なく座れる?作業用で座り心地はよくないけど、立ってるよりはいいんじゃないかな?」
どこまでも優しいデリー様に言葉にできない熱い気持ちがむくむくと湧いてくる。
これはなんていう気持ちなんだろう?
感謝?尊敬?憧れ?
わからないけど、プラスとマイナスの表があったらプラスに突き抜けた感情だ。
いつかデリー様に恩返しをしたい。そして私もデリー様のような人になりたい。
たった2回会っただけなのに、デリー様は私のハートを鷲掴みしてる。
そう考えるとますますデリー様へのプラスの気持ちが上昇して、これは負のスパイラルならぬ正のスパイラルだ。
心の中でデリー様への賛美の言葉を叫びながら、私は椅子に腰掛けてリリー様を膝に乗せた。
その間にデリー様とマリオくんは手早くお茶とお菓子を用意してテーブルの上に並べていく。
ジャムの挟んだクッキーやスコーンにラスク、色とりどりのフルーツの盛り合わせ。
お茶は紅茶のようでカップから湯気が立ち昇っている。
今世お菓子なんて見たこともないし、温かいお茶も飲んだことはない。
だってご飯は残飯で飲み物は水一択だったし。
感動に打ち震えていると、ソファに座ったデリー様がお菓子をいくつか皿に盛り合わせて私の前にそっと置いてくれた。
「さあ、どうぞ。ジュースの方が良かったかな?」
感動で言葉を失った私は首をふるふる横に振ってテーブルのお菓子をうっとりと眺めた。
デリーさんもマリオくんはなぜか私の方をじっと見て黙っている。
ほら食え、ほら食えと目が語ってる。
これはあれだ。
野良猫見つけて餌をあげるときのアレ。
なるべく警戒させないように少し離れて気配を消して、息を潜めて様子を伺うやつ。
私はなんだか知らない期待を感じながらラスクを一枚手にとって端っこを齧った。
ガリッ。ザクザクザク。
私の知ってるラスクよりも硬めだし、甘くない。
全然美味しいけど。
でもこれは保存も効きそうだしお土産にもらえないかな。
次にクッキーに手を伸ばす。
ポリッ。サクサクサク。
これは!
「あんまーい!!!」
思わず声が出ると、デリー様とマリオくんが嬉しそうに笑った。
「それ、俺が作ったんだ!」
マリオくんが得意げに鼻の下を人差し指で擦りながら胸を張った。
リアルでこんな仕草する人いるんだ…
マリオくんはやんちゃ坊主って感じだし、顔立ちが可愛いから違和感はないけどさ。
スコーンに手を伸ばしたところで、「私も食べたい…」と小さい声が下から聞こえた。
目をやるとリリー様が少しフルフルしながらテーブルを見つめている。
「リリー様ってご飯食べるの!?」
うそー!今まで一回もリリー様に食べ物も飲み物もあげてなかった!!
リリー様、今までずっと我慢してたの!?
私が焦っていると、リリー様が私を見上げて葉っぱをパタパタ振った。
「いいえ、普段は食べなくても大丈夫なの。でもこれは食べてみたいの。甘くていい匂いがする。」
得意げな時だけ出てくる鼻はきちんと匂いも拾っているらしい。
私がスコーンを半分に割ってリリー様に寄せると、リリー様は両手がわりの葉っぱでスコーンを受け取り口に持っていった。
歯とかあるのかな。
その小さい口で食べれるかな。
もう少し細かく割ればよかったかな。
そんなふうに考えながらリリー様を見ていると、リリー様は花弁をきゅっと寄せて顔全体でスコーンを巾着のように包みこんだ。
巾着袋が何回かもごもご動いてパッと開くと、スコーンは綺麗になくなっている。
「え…。」
なんか想像と違うんですけど。
これはまるでイソギンチャクの捕食のような…
可愛さゼロ。不気味さヒャク。
私もだろうけど、デリー様とマリオくんも引き攣った笑いになってるよ。
そんな私たちを気にする様子もなく、リリー様は全身をピーンと伸ばして少し光った。
「おいしーい!他のも食べたいわ!」
気を取り直した私は、ラスク、クッキー、果物とリリー様に与え、リリー様が満足する頃にはみんなイソギンチャクの捕食にすっかり慣れていた。




