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RING 組織犯罪対策第三課特異事例対策室  作者: 文月 イツキ
一つ目 游星の白昼夢、流星の明晰夢
3/36

2、虚ろなそれは

 これは十年前の話。


「ユメ!」


 手に持った花束を床に落とし、詩音は目を覚ましたユメに涙ぐみながら抱きつく。


「やっと……目を覚ました……良かった……本当に……」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、嗚咽交じりに詩音は心底安心したようにしている。


「おわっ、しおちゃん……?」


 体中に包帯を巻いたユメは一瞬驚いた様子を見せた後、戸惑うように首をかしげる。


「なんで泣いてるの? 僕、飛行機に乗った? よね……あれ、髪短くなってる。それに冬服?」


 ユメは現状を把握できていない様子で、自分にとって、ついさっきの出来事を思い出そうとする。

 葵と詩音、二人は夏服で自分を送り出していた。自分の髪は肩にかかるほどあったはずなどと現在との相違点を把握しようとする。

 あたりを見渡すと、その場所は普段寝起きしている自室ではなく。保健室……いや、なんとなく病室であることを理解した。

 そして、なぜか他人事のように、そしてそれが自然であるかのように、ユメは落ち着いた様子で自分のあるはずの右腕を見つめる。

 肩からバッサリと自分にあったはずの指環が付いた右腕がそこにはなかった。


「なにがあったの?」

「あぁ、ごめん。ずっと寝てたから、いきなり抱きつかれたら驚くよね」

「ずっと寝てた……」

「大丈夫すぐ看護師さん来るから」


 詩音は涙をぬぐいながらナースコールをする。


 そこから医者や詩音を通じ、ようやくユメは自分の身に起こったことを把握する。

 あの日、親族の元へ向かう飛行機が空中分解し、自分が遥か上空で投げ出されたこと。そして、ただ一人、香澄夢芽だけが意識不明の重体で発見され、半年間、目覚めなかったのだと。

 それはユメにとって、どこか他人事のような、どこが現実離れした夢の中の出来事のようで、ただただ、どう受け止めていいのかわからなかった。


「アンタが見つかってすぐは本当に生きるか死ぬかってくらいで、暫くは面会もさせてもらえなくて。それで、ようやく三か月前、アタシたちがお見舞いに来れる程度には回復したって」


 検査を終え、退院の目処が経った頃、病室に訪れた詩音はそう語る。

 自覚して初めて包帯が巻かれている部分に違和感を覚え、実際に大きな怪我を負っていたのだと実感する。

 そして喪失した右腕も確かに、現実なのだと。


「指環、なくなっちゃった」


 いつかのあの日、坂の上に寝転がる少年のように、ないはずの右腕を天井にかざす。


「右腕、見つからなかったんだって、今の医療なら見つかってたらくっつけられたってお医者さん言ってたよ」

「まあ、ないなら仕方ないよ、ないなら」


 そのユメにあの頃のような朗らかさはこもってない。

 医者の話によれば、事故で脳にも大なり小なりの後遺症が残るのだと。

 その影響かユメはどんなに再現しようとしても、昔のように表情が作れない、声に抑揚が付かない。


「なんか変な感じだなぁ」


 たったそれだけ、右腕と表現がなくなっただけ、大勢が亡くなった中それだけで済んだ。そう思えば幸福であるはずなのに。


「葵も毎日来てたから、アンタが起きたって聞いたら、泣いて喜ぶわよ」

「それは……想像がつかないね」


 酷く、自分が虚ろになったように思える。


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