表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

p.4

 ブーケを渡されてから、私の心には、どす黒い靄のようなものがかかっていた。いつもならば、くだらないと思いながら聞き流せる美香の甘ったるい惚気話が、癪に障る。くだらない話が、いつにも増してくだらなく聞こえる。


 聞き流せばいい。そう思うのに、そのくだらない言葉は汚泥のように私の中に溜まっていく。汚泥に塞がれて息がうまくできない。苦しい。


 そう思った時、美香が暢気な声をあげる。


「ちょっと茉莉花。ちゃんと聞いてる?」


 限界だ。なぜ、私がこんな奴の惚気を延々と聞かなければならないのか。


 私は、最大限の作り笑顔で相槌を打つと、この後も予定があるからと言って、その場から逃げ出すことにした。美香は、もっと話したかったのにと、不満げな顔をしたが、私は、もう、一秒だってこいつの顔を見ていたくなかった。


 何が幸せになって欲しいだ。私から幸せを奪った張本人が、よくも呑気にそんな事が言えるものだ。こんな花束まで渡してきて、私にマウントを取ってるつもりだろうか。


 苛立ちが抑えきれず、自宅に戻ると、手にしていた紙袋をソファに投げ捨てる。ソファの上で跳ねた紙袋は、横倒しになり、その拍子に小さな花束が床に転がり落ちた。


 私は、それを無視するように、わざとフンと鼻を鳴らし、そのままキッチンへ向かう。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、そのままゴクゴクと音を鳴らして一気に半分程を飲み干してから、盛大なため息と共に、缶をバンと打ち付けるようにしてダイニングテーブルに置いた。あまりの勢いに、中身が少し溢れたことに、更に苛立つ。


 イライラとしている原因は、分っている。私は、美香と自分を比べているのだ。


 結婚したからと言って、人生の勝ち組というわけじゃない。自分がいかに満足に人生を送るかが大切なのだ。本当に心からそう思っている。


 だから、周りがいくら結婚しようと、出産しようと、私は、焦ったりはしない。笑顔で『おめでとう』の言葉を送ってきた。


 でも、美香だけは、あの子にだけは、心から『おめでとう』とは言えなかった。義博と付き合う事になったと報告された時。結婚すると聞いた時。おめでたいなんてこれっぽっちも思わなかった。


 ただただ悔しかった。負けたと思ってしまった。それからは、あの子の言動がいちいち鼻につく。


 ブーケプルズだって、本当なら、そんなに目鯨立てるほどの事じゃない。独身だからなんだっていうのだ、そう笑い飛ばせるイベントだったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ