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p.1

 美香から送られてきた住所を頼りに来てみれば、そこは所謂、高級住宅地と呼ばれるところで、高そうな住宅やマンションが立ち並ぶ場所だった。そこに聳え立つ白壁の真新しいマンションが目指す場所だ。


 教えられたとおりに部屋番号を呼び出すと、すぐに美香の少し間の抜けた声で応答があった。オートロックが解除され、中へ入ると、広々としたエントランスには、高そうなソファが置かれている。どうやら、住民の共有スペースとして使えるようで、商談中なのであろうか、一組が何やら話し込んでいた。


 そんな様子を横目に、私はヒールの音を響かせつつ、ホテルのようなエントランスを抜け、エレベーターに乗り込むと、美香の待つ部屋へと向かった。


 ドアチャイムを鳴らすと程なくして、美香がのほほんとした顔を覗かせた。


「いらっしゃい、上がって」

「これ、シュークリーム」


 私は、勧められるままに、靴を脱ぎ部屋へと上がると、すぐに手土産を渡す。


「わぁ、ありがとう! 早速、食べよ。お茶入れるから、茉莉花は座ってて」


 通されたリビングダイニングは、大きな窓から燦々と陽が入り、それが、まだ新しい調度品を照らしていて、随分と明るい雰囲気を与えている。


 カチャカチャと音をたてながら、紅茶とシュークリームを運んできた美香に、私は、嫌味にならないよう気をつけながら、口を開く。


「随分と良いところね」

「うふふ。そお? 部屋も家具もほとんど彼が選んだの。私の意見は、全然聞いてくれないのよ」


 愚痴を言いつつ、幸せオーラを全開にしている美香をチラリと一瞥し、私は、ティーカップに砂糖をふたかけ落とした。


「さすが、御曹司ね。うちとは大違い」

「あら? 私は、茉莉花のお部屋好きよ。家具の配置も素敵だし。私には、茉莉花みたいな素敵なセンスないから、お邪魔するたびに羨ましいと思ってるのよ」

「それは、ありがとう」


 一瞬、心に落ちたシミを溶かすように、カップに落とした砂糖をティースプーンでかき混ぜる。しばらく混ぜてから、カップからスプーンを抜き、心を落ち着けるように、カップに凪が訪れるのを静かに待った。


 カップの水面が静かになったのを見計らい、カップを軽く持ち上げ、乾杯の仕草をしてみせる。


「結婚、おめでとう」


 その一言を添えてから、カップに口をつけた。ほんのりとローズの香りのする紅茶を口に含み、しばらく目を閉じて香りを楽しむ。


 瞼の向こう側で、美香が満面の笑みを浮かべているのは、わかっていた。

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