第8話 開催宣言
昼休み。
クラスメイトが騒いでいる中、シンはシエルカードについての情報収集を続けていた。
「金田、持ってるカードを見せてくれないか?」
「あぁ! 勿論だとも」
以前と同様に机の上に置かれた十枚のカード。
ランク序が五枚、ランク破が三枚、ランク急が二枚。
「やっぱりランク急のカードは封入率が低いの?」
「それは一昨年までの話だよ。もう封入率に差はないと聞いているね」
「五十万円使っても進化ラインは揃わないか」
一枚一枚のテキストを確認したが、どのカードには"スキル"という記載は無い。
一方でランク破とランク急のカードには"効果"の記載はあったが、ランク序のカードに効果の記載は無かった。
「君は自引きで進化ラインを揃えるつもりなのかい!? それは無理な話だよ。この二年でシエルカードは世界中に輸出したから、日本の在庫に進化先のカードがある可能性も低くなってしまったんだ」
シンは愕然として、束ねたカード達を金田に返した。
「その輸出を進めているのが、鷺ノ宮エンタープライズの社長って訳さ」
金田の話はクラスメイトの声により掻き消された。
後ろの席の麻々乃がチョンチョンと肩を叩き、タブレットを見せつけてくる。
「緊急記者会見。話題の人が喋る」
タブレットを覗き込むとスーツ姿の鷺ノ宮エンタープライズ代表取締役社長が壇上に立っていた。
その左腕にはガントレット型のアイテムが嵌められている。
カメラのフラッシュ音だけが流れる映像を食い入るように見るクラスメイトに混じってシンも固唾を呑んだ。
『鷺ノ宮エンタープライズCEO、鷺ノ宮 朝陽です。本日、この瞬間より日本発のシエルカードは全世界で発売を開始しました』
フラッシュ音がより一層大きくなり、記者達がざわめき出す。
『それから、もう一つ。このシエルデヴァイスのアップデート完了のご報告をこの場で行わせていただきます。これにより、契約カードに描かれたモンスターをビジョンとして現実世界に召喚可能となります』
記者からの質問攻めに合う鷺ノ宮 朝陽は表情を変えずに左腕を見せつけた。
『では実演と参りましょう』
左腕のガントレットにスマートフォンをセットすると内蔵されていたディスクが飛び出した。
一つの溝にシエルカードをセットすると青白い光を放ち、一人の青年が現れた。
その姿はギリシャを思わせるものでマント付きの鎧、アームガード、サンダル風のレッグガードを纏っている。
まるで本当にそこに存在し、生きているかのような質感を持つ戦士は辺りを見回し、鷺ノ宮 朝陽に一礼した。
言葉は発せずとも、画面越しにも主従関係が見て取れた。
『これが私の契約モンスターです』
記者会見とは思えない程の歓声が聞こえるが、それはその場に留まらなかった。
クラスメイトが、学校中が、町中が、日本中が、世界中が歓声に沸いた瞬間だった。
『そしてもう一つ』
戦士を控えさせた鷺ノ宮 朝陽は大袈裟に両手を掲げた。
『ここに、シエルカードゲーム公式大会、"魔王杯"の開催を宣言します!』
更に世界中が沸いた。
『国籍も性別も年齢も強さも関係ない。誰でも参加出来る大会です。優勝賞品はこちら』
厳重なアタッシュケースを手元のカメラに映し出す。
映像のワイプにはアタッシュケースの中身が映し出され、世界中の人々が息を呑んだ。
そこには七枚のカードが収められていた。
『カテゴリーdevil。世界に七枚しか存在しない悪魔のランク急のカード。優勝者にはこの中から一枚を選んで貰い、それを賞品とします』
カメラのフラッシュが鳴き止まない中、一人の記者が声を張り上げた。
『社長! 何故、この大会を開催されるのでしょうか!?』
『…某日、某所』
彼が語り始めると会場は静寂に包まれた。
『世界で初めて七枚之悪魔の一柱と契約した者が確認されました。私達は彼、或いは彼女の登場を心待ちにしていました。これが開催の理由です』
『そ、それは誰なのですか!?』
『個人情報なのでお答えしかねます。その者はこの大会に参加するでしょう。いずれは公になるかと……。私は激戦を特等席で観戦させていただきます。世界中の皆様、奮ってご参加下さい』
一礼して会場の袖へと消えていく鷺ノ宮エンタープライズ代表取締役社長を見送り、生中継は終わりを告げた。
しかし、その後も世界中の人々の興奮は冷めやらないのだった。