第72話 カガミという名の関西人
シンが小学生時代の記憶を取り戻し、シエルカードゲームへの復帰を決めた翌日の昼下がり、鷺ノ宮エンタープライズが記者会見を開いた。
しかし、マイクの前で一礼したのは鷺ノ宮 朝陽ではなかった。
誰もが初めて見る男性であり、会場にいる記者やテレビの前の視聴者から驚きの声が上がる。
『社長はシエル症候群を発症し専門病院に入院した為、副社長である私が留守を預かることとなりました」
頭を下げた男性は鷺ノ宮 朝陽のようにエンターテイメントを重んじるタイプではないのか、淡々と言葉を続け、サラッと重要な事を伝えた。
『七枚之悪魔および三枚之天使のカードは全てが契約済みとなりました』
会場がざわめき出し、教室で記者会見の生放送を凝視していたリョウ達も声を荒げた。
『シエルカードは世界人口の約八割が契約者となり、モンスターを連れ歩く姿は日常の光景となりつつあります。全員がプレイヤーではない為、契約モンスターに生活のサポートをお願いする事も問題はありません。皆様のお好きなようにご使用下さい』
そう締めくくり、記者会見は幕を閉じた。
確かに契約モンスターを道具のように扱う者も少なくない。
しかし、彼らがエルダーと呼ばれる生命体である事を知っているシンにとっては面白くない話である。
「だってよ。お前やAimeeちゃんと同じ悪魔のカード持ちが他に五人も居るのかよ。しかも天使まで他の二枚も出てきやがって」
「そういえば、近所のおばちゃんも契約モンスターに荷物持つをさせてたなー。麻々乃も新しくカードを買って契約する? 折半するよ」
「いらない」
あっさりと断る麻々乃の隣ではシオンがニコニコと微笑んでいる。
リョウ、亜梨乃、麻々乃の三人は彼女が何故そんなにもご機嫌なのか知っていたが、一緒に喜ばない理由があった。
「良かったね、シン」
「あぁ。七枚之悪魔は俺が全部手に入れる」
恍惚の笑みを浮かべるシオンが身体を寄せる。
久々に見るシンの高圧的な笑みはシオンを含め、友人達を震え上がらせた。
つい先日までシエル症候群を危惧してプレイヤーから引退していた人物とは思えないほどの豹変ぶりである。
そんなシンに対して、シオンは喜んで【羨望の小悪魔】を差し出すつもりだった。
シエルカードゲームアプリ内のイベントにも復帰した事でバトルを挑まれる日々が再び訪れたが、シンはそれらに反応を示さなかった。
そして、シンの復帰と同時に"リスク"も活動を再開した。
プレイヤー達は彼あるいは彼女に敗れ、シエル症候群を発症する者が増していく。
そんな現状にも鷺ノ宮エンタープライズ副社長は対策を講じる事はなく、静観を続ける姿勢を崩さなかった。
シンのスマートフォンからメッセージを伝える電子音が鳴り、アプリを起動すると新規のバトル申し込みが来ていた。
いつものように放置しようとしたが、そのユーザーネームは無視できるものではなく、すぐにメッセージを開く。
『舐めプしたあんたを許さへん。うちと戦え』
カテゴリーghostのカードと契約するカガミという名のプレイヤーはアプリ内ではなく、シエルデヴァイスを用いてのバトルを申し込んできた。
シンは無言で承認し、ダイレクトメッセージを送る。
しかし、彼らは住んでいる地域が全く異なる為、戦いはゴールデンウィーク中に行う事となった。
「珍しいね。何かあるの?」
「カガリさんには悪い事をしたからな。彼女には全力でぶつかる」
カガミの正体を知ったシンはゴールデンウィークまで誰ともバトルをせず、その一戦に全てをかける心積もりで彼女の挑戦を受け入れた。
あっという間に時が過ぎ、関西から上京した彼女は待ち合わせ場所で佇むシンを見つけ、小走りで駆け寄る。
「"魔王"シン、ここで始めるで」
「はぁ!? 箱を予約してあるから移動するぞ」
「なんでやねん。ここまで二時間かけて、うちは疲れてんねん。今日は歩行者天国なんやろ。別に問題ないやん」
「目立つだろ」
「えぇやん。あんたが負けるとこを関東人に見せつけたったらえぇねん。ほな、行くで」
キャリーケースから自前のシエルデヴァイスを取り出したカガミを止める事ができなかったシンはリュックの中を探りながらリョウに電話をかける。
いくら歩行者天国とは言え、道路のド真ん中でバトルをすることになると思っていなかったシンは少なからず動揺していた。
歩行者達はシンに気付き、その足を止める。
一瞬にして人集りに囲まれたシンとカガミは左腕にシエルデヴァイスを装着して宣言する。
「「侵略!」」




