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第66話 双子だからこそ

 亜梨乃と麻々乃は自室でそれぞれの時間を過ごしていた。

 亜梨乃はスクリューダウンに入れたままの【天地隠覆てんちおんぷく大蛇だいじゃ】を眺めながらスマートフォンを操作し、麻々乃はパソコンでネットサーフィンをしている。



「ねぇ、麻々乃。あの時のシン君、カッコ良かったね」

「シンはいつだって格好良い」

「どうすれば、あんな風に契約カードと心を通わせられるんだろう」



 麻々乃の言葉に偽りはない。

 姉が彼に対する恋心を抱いている事は知っているし、それが叶わぬものだという事も理解している。

 対して麻々乃の心に隠されたシンへの想いは恋とは異なる形をしている。彼女は未熟な女性ながらにそれを理解しており、決して表には出さないように努めていた。



「好感度、サクッと上がんないかなー」



 そんな亜梨乃の嘆きを聞き漏らしそうになっていると、ピコンと電子音が鳴り、メールの受信を知らせてくれた。

 送信相手は不明だが、どうせ風間だろうと決めつけてメールを開く。



「――ッ!?」



 長いダウンロードが終わり、莫大なデータ情報がパソコン内に取り込まれる。

 それらは想像を絶するものばかりで情報処理能力が追いつかなくなった麻々乃は咄嗟にパソコンの画面を消した。



「どうしたの?」

「なんでもない。好感度はカードを信じれば上がる」



 ベットに寝転んでいた亜梨乃が身体を起こし心配そうに声をかけてくれたが、麻々乃は平静を装い、聞き漏らさなかった話題を掘り返した。



「どういう事?」

「【天地隠覆てんちおんぷくの大蛇】が世界で一番可愛くて、一番強くて、一番信用出来る。そう思う気持ちが大切。多分、シンはそうしてる」



 亜梨乃は再び脱力してベットに身を委ねた。

 たまに、妹は人の心を読めるのではないかと錯覚してしまう時がある。

 特にシンに関しては自分と同じかそれ以上によく見ていると思っているし、麻々乃の気持ちも知っているつもりだ。

 彼女はシンの事が好きなんじゃない。憧れや崇拝と言っても過言ではない程、大袈裟な感情を抱いている。



 活発で人懐っこい亜梨乃に比べ、お淑やかで引っ込み思案な麻々乃は中学生まで『姉のありの、妹のなしの』と影で呼ばれていた。

 あるいは佐藤さんと呼ばれ、亜梨乃と区別するとしても名前で呼ばれる事はなかった。

 しかし、高校生となり同じクラスのシンに初めて麻々乃と呼ばれた。

 彼は名前の呼び方を確認したかっただけかもしれないが、それ以降も麻々乃と呼んでくれるようになった。



 だからこそ、麻々乃はシンの事になると一生懸命になる。

 睡眠も食事も厭わずにシンが求める情報を集める事に没頭するのだ。



「進化させなくて良いと思う」



 ポツリと呟いた麻々乃の方を向くと、それが本心だと分かる程に真剣な眼差しを向けられていた。



「シエル症候群シンドロームだよね。シン君にも言われてるから悩んでるんだ。このまま【天地隠覆てんちおんぷくの大蛇】を飾っておくのもアリなのかもね」



 どちらが先に入浴するのかという話題を経て、部屋を出て行った亜梨乃の後ろ姿を見送り、パソコンを再度立ち上げ麻々乃は毎日のルーティンをこなし始めた。

 それはありとあらゆるSNSのチェックだ。

 検索ワードは『シン』、『小悪魔』、『魔物』、『魔兎』の四つで、投稿内容の全てに目を通していく。



 主な投稿は「兎が可愛い」、「魔兎がエロい」、「チート、うぜぇ」などというものだが、稀に「シンにバトルを挑んだけど、拒否された」というものもある。

 更にシンをディスる者も少なくないので、こういうものに興味のないシンに代わり、エゴサーチしていくのだ。



「シンが初めての契約者? 本当の契約を結んでいる? だから身に覚えのない契約が結ばれていた? だから最初から好感度が高かった?」



 エゴサ中も風間から送られてきたメールの内容が気になって仕方ない麻々乃は、もう一度メールを開き、亜梨乃が戻ってくるまでに全てを読み終えた。



「シンも負ければ発症する」

「シン君がどうかしたの?」



 背後からパソコンを覗き込む亜梨乃に気付かなかった麻々乃はガタッと椅子を鳴らし、パソコンの画面を消した。



「何を隠したの?」

「なんでもない」

「私に言えないこと?」



 珍しく追求してくる亜梨乃に苛立つ麻々乃は無言で立ち上がり、彼女の隣を通り過ぎようとしたが、肩を掴まれて立ち止まった。



「秘密にしないといけないこと?」

「……うるさい」

「……え?」

「うるさいッ!」



 手を払い除けた麻々乃はヘビのように縦に長い瞳孔で亜梨乃を睨み付けた。



「亜梨乃だって私に隠し事をしてる!」

「私は別に――」



 音を立てて閉じられた扉を茫然と見つめる亜梨乃は麻々乃が何の事を言っているのかを悟り、悲壮感の漂う溜め息を吐いた。

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