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第65話 フリーライター風間の失踪

 風間は鷺ノ宮エンタープライズ支社や研究施設での取材を終え、二度目の本社への取材に漕ぎ着けた。

 代表取締役社長である鷺ノ宮 朝陽から直接話を聞く事は出来なかったが、施設見学をする中で関係者以外立ち入り禁止の扉にいくつか目星をつけていた。

 退館すると見せかけて再度、本社へ潜り込んだ風間は地下施設への道を突き進んだ。



 そこはだだっ広い地下空間で何本もの道が枝分かれしており、簡単に地上へは出られないだろう。

 小型のカメラを起動させながら進むとポツンとデスクだけが置かれており、その上にあるパソコンの画面にはシエルカード製造方法についてのマニュアルが映し出されていた。

 辺りを警戒しながら動画を回しつつページを進めていくと、とある文章が目に止まった。



「シエルカードは魂の契約。契約しないと彼らを現実世界へ召喚することは困難である。やっぱり! 俺の仮説は正しかったんだ」



 更にページを進めると『エルダー・ワールド』、『エルダー』という単語が頻回に使われるようになり、自分の想像を越えるスケールの事業が展開されている事に気付き、足が震え始める。



 一通りパソコンを閲覧し終え、枝分かれした道を進んだ先に突き当たった真っ暗な部屋の中央には空間の歪みが発生しており、どこかと繋がっているようだった。



「なんだよ、これ……」

「ようこそ、風間さん。あなたのお陰でシエルカードの売れ行きは好調です」



 風間の掠れた声に返答する謎の声。

 白衣のポケットに手を突っ込み、足音を部屋中に響かせながら風間の前に現れる。



「欲しい情報は手に入りましたか? シエルカードについて、好感度について、進化について、ありとあらゆる情報を開示したつもりですが、お気に召されたでしょうか」

「罠だったのか。あれは何だッ!?」



 空間の歪みを指さしながら、叫ぶ風間の声は震えていた。

 漆原 進歌は愉快そうに微笑み、部屋の電気を付ける。

 眩しさに目が慣れたとしてもその装置が何なのか、風間には理解出来なかった。



「これはエルダー・ワールドと地球を繋ぐ装置。そして、エルダーをカード化する為の装置。ここで地球に来訪したモンスターをランク急のカードにして別の場所で二分割する。ランク序とランク破のカードにしてパックに封入し、一パック五万円で世界中にばらまく」


 つまり、基本的な形態はランク急の姿という事になる。


「人間がカードと契約するとカードに描かれたモンスター、即ちエルダーと呼ばれる異世界のモンスターと魂が交わる。魂の結びつきが強いと好感度が上がる。好感度が上がれば進化出来る。進化すればランク急という本来の姿を取り戻したエルダーがこの地球に降り立つ。そのエルダーというモンスターで人間はバトルをする。負けたり、傷つけば魂を喰われ、シエル症候群シンドロームと名付けられた病気を発症する。それがシエルカードゲームだ」


 饒舌に語る漆原と風間を囲むモニターにはこれまでの研究成果や膨大なデータが映し出された。



「でも安心して。シエル症候群シンドロームを発症しても死ぬ事はない。意識が無くなるだけで生命維持活動は続くの。エルダーは人間を餌と認識しているから、動く事の出来なくなった契約者の方が都合が良いってわけ」

「そんなにベラベラと喋って良いのか! 俺は全部、録画録音してるぞ!」

「勿論。だって――」



 漆原の持つスマートフォンのアプリ内にはモンスターの姿が無く、嫌な予感が脳裏を過ぎった。



「貴方は意識不明の状態でここを出るのだから」



 風間は咄嗟に飛び退き、スマートフォンから自身の契約するモンスターを現実世界に召喚する。



「来い! 【大気を司る大精霊】」

「おぉ! すごい、すごい! まさかランク急のカード持ちだったとは侮っていたよ。でも、残念だな。君には信じる気持ちが足りないみたいだ」



 風間は【風の小人こびと】、【風の精霊】、【大気を司る大精霊】のカードを入手し、必死に好感度を上げた事でランク急のモンスター効果の恩恵を現実世界でも受けられるようになった。

 しかし、彼は漆原からシエルカードの真実を聞き、自分も【大気を司る大精霊】にとっては餌なのだと考えてしまった事で好感度が100%ではなくなり、ランク破の【風の精霊】が召喚されている。



「そんな……。こんな簡単に好感度が下がるのか!?」

「そうだよ。でも、一人だけイレギュラーな存在が居るんだ」



 漆原は笑みを深めて、その名を口にする。



「"魔王"シンだよ。彼は世界で初めてエルダーと契約を結んだ。この世で本当の契約を結んでいるのは彼だけ。だから、彼だけは【魅惑の小悪魔】から餌と認識されていないんだよ。この情報、佐藤 麻々乃ちゃんに流して良いよ」



 まだまだ話し足りないと言うように次々と新事実を伝える漆原の背後からヒタヒタと嫌な音が聞こえる。

 やがて風間の足元に水が滴り、片足を上げると靴底には粘度の高い糸が伸びた。



「あとは何か話してないかな? あー、そうだった! 七年前の事故に巻き込まれた少年も"魔王"シンだよ。あの時に彼はエルダー・ワールドに迷い込んでしまったんだ。君、なかなか良い線行ってるよ」

「漆原 進歌、あんたの目的は何だ!?」



 尚もポケットに手を突っ込んだまま、口角を吊り上げる。



「世界を取る」



 その言葉を最期に風間は何者かによる攻撃を受け、気付くと床に這いつくばっていた。

 傍に横たわっていた【風の精霊】は戦闘不能となり現実世界から消滅した為、彼を守る者は居なくなっている。

 漆原は風間が持っていたカメラを取り上げ、パソコンに接続すると佐藤 麻々乃へ全てのデータを送信した。

 役目を終えたメディアプレイヤーを破壊し、風間へと視線を向けて舌舐めずりする。

 風間の意識はそこで途絶え、二度と目覚める事は無かった。

【風の小人こびと】→【風の精霊】→【大気を司る大精霊】

ランク:序→破→急

カテゴリー:spiritスピリット

モチーフ:精霊 シルフ

効果:相手モンスターのステータス、効果、スキルが常に見えている状態でバトルを行うことができる。

契約者:日本人 フリーライター風間

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