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第54話 暗闇からの告白

 クリスマスは世界大会で潰れ、年末年始は気分が乗らず誰とも会わなかった。

 リョウ達からのメッセージは届いていたが既読すらつける気力が起きないほど滅入っていたシンは自宅に引きこもり、いつしか新学期を迎えた。



「よぉ、シン。あけおめ」

「あけおめって、もうとっくに正月は過ぎたぞ」

「お前が返事をよこさねぇからだろ」

「あぁ、そっか」



 二人並んで登校するのは久々でリョウは何か話したい事があるのか、ずっと口を動かしている。

 シンにとって世界大会の話は聞かれたくない事だが、どうせ教室に入れば嫌でも質問されるだろう。その度に耳を塞いで保健室に逃げる訳にもいかないので、この場で聞かれても一緒だ。



「何が聞きたい?」

「……お前、身体は大丈夫なのか?」



 意表を突かれたシンは俯きながら目を見開き、ほくそ笑んだ。そうだ、リョウはこういう奴だった。

 新学期の一番最初にこの話をするのがリョウで良かったと思うと同時に、意外にも胸の奥はざわつかない事に気付いた。

 改めて顔を上げたシンは「俺は何ともねーよ」と笑う。



「今でも帰ってからでも良いんだけど【色欲の魔兎】を実際に召喚してくんね」

「なんでだよ」

「なんでってお前。そりゃあ、拝みたいだろ! 出来る事から揉みたいし、許されるならお前みたいに埋めたいだろ!」

「……お前なぁ。彼女持ちの発言とは思えないぞ」



 大会中はこんな猥談を出来る相手も居なかったし、そんな空気でも無かった。

 しかし、気を許せる友人とならくだらない事で笑い合える。

 それが実は当たり前ではなく、突然奪われてしまう可能性がある事をシンは知ってしまった。



「で、実際どうだったんだよ」

「覚えてねぇよ。ランク急の進化は死にそうなくらい苦しくて、それどころじゃなかった」

「マジか。テレビで見てても何となく伝わってきたけど、そんなにか」



 リョウもランク急のカードを入手済みだが、まだ好感度が不足しており、一度も進化させていない。

 シンの場合は【色欲の魔兎】が呼吸の手助けをしてくれたが、リョウの場合はどうなるのか想像もつかなかった。



「あとあれだ。Aimeeエメちゃんだよ! なに一瞬で彼女持ちになってんだよ! しかも生放送でキスまでしやがって。ほら見ろ、ネットがヤバい事になってたんだぞ」



 突き出されるスマートフォンにはシンとAimeeエメがキスしている写真や見つめ合っている写真が掲載され、思い思いの事が書き込まれていた。

 更にネットニュースにもなり、『シン×Aimee』というワードがトレンド入りしている程だった。



「マジ……?」



 この状況で登校するのか、と項垂れるシンの肩を叩いたリョウは勇者を見るような目でニヤニヤと笑う。

 一気に登校したくなくなったシンを逃がさないように肩を掴む手に力を込めたリョウを振り払い、校門前で深呼吸を一つした。



「ッし、行くか」



 気合いを入れて正面玄関に辿り着くと瞬く間に生徒達に囲まれた。

 これまで以上に飛び交う質問にめげず、教室へ向かうと更にクラスメイトからの質問攻めに合い、例のごとく教師が飛んできた。

 そのままクラスメイトとは別々に始業式へ連行されたシンは校長先生のありがたいお話の後に名前を呼ばれ、全校生徒を見下ろす形で壇上に立たされた。

 校長先生は嬉々としてシンの功績を讃えているが担任教師は申し訳なさそうに頭を下げていた。

 早く終わんねぇかな――。

 その願いが叶うのはもう少し先になるのだがとにかく校長先生の話は長かった。



「お疲れー」

「お疲れ様だったね。シン君、大丈夫?」



 先程まで質問攻めしていたクラスメイトは同情の念を込めて労いの言葉をかけてくれる。

 シンの周りには人集りが出来てリョウと亜梨乃は近付く事が出来ない程だった。



「シン君が遠い」

「有名人に戻ったな。置いて帰るか?」

「それは可愛そうだよー」

「女子侍らせて帰るんじゃね。あ、あいつ彼女持ちだったわ」



 けらけらと笑いながら口走った台詞は亜梨乃の胸に突き刺さり、彼女は力の限りリョウの足を踏みつけた。

 「んごぉ!?」と汚い声を吐き出すリョウを無視して自分の席に座り、拗ねる子供のように突っ伏す。



 放課後。いつものカードショップに新年の挨拶と世界大会の報告の為に顔を出したシンはリョウと別れて帰路についた。

 まだ夕方から朝方にかけては凍えるように寒く防寒着がないと出歩けない程だ。

 しかし日が落ちるのが早く、夜の時間が長いこの時期は嫌いではなかった。

 街灯が夜道を照らし安心して歩けるが、灯の当たらない場所もあるわけで――。



「シン」



 暗闇から声をかけられ、身体が飛び跳ねる。

 声が聞こえた十字路の反対側は見えないが、陰になっている部分に人の気配を感じる。その声はいつも学校で聞く女生徒のものだった。



「なんで隠れてるんだよ。出てこいよ」

「シン、好き」



 突然の告白に頭の中が真っ白になり、言葉が出てこない。



「苦しいなら言って。私が慰めてあげるから」

「……何を言ってるんだよ」



 振り向き様に陰の中から一瞬だけシルエットは見えたが顔は見えず、足音が遠ざかって行く。

 おおよそ相手の目星はついていたが、確信が持てないシンは今日の出来事を胸の内に秘めて、他言する事は無かった。

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