第53話 三人の天才
【お詫び】
ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。
この度、タイトル・あらすじ・第1話の内容を大幅に変更しました。
ご迷惑をおかけしますが、完結に向けて進めていきますので今後とも宜しくお願い致します。
5/14 桜枕
世界大会後、鷺ノ宮 朝陽は憤っていた。
まさか自分達の作ったカードゲームが原因で新たな病気を生み出す事になるとは思ってもみなかったのだ。
シエルカードにおける契約は魂の契約である。だからこそ、人は一枚のカードとしか契約を結べない。
そして、一人と一体の呼吸と気持ちが一つとなり、二つの魂が共振した時に契約モンスターは真の姿を現し、真の力を発揮する事が出来る。
これが鷺ノ宮が聞かされたゲームの内容だった。
「何故、シエル症候群なんてものが流行ってしまうんだ。答えろ、漆原」
「そんな事を今更言われても困るな。契約とは双方にメリットとデメリットが生じるもの。格好いいモンスター、可愛いモンスターを使役して遊ぶだけじゃ、人間側しか喜ばない。モンスター側にもご褒美が無いと」
白衣を着こなし、ポケットに手を突っ込む人物はやれやれと言うように首を振る。
鷺ノ宮には一つの仮説があった。それはランク序からランク急のカードへ進化させ、効果の発動や攻撃を命じる事でプレイヤーの魂を削っているのではないかというものだ。
シエル症候群とは魂を削り過ぎた際に生じる奇病だと主張したが、漆原と呼ばれた研究者は幻滅するようにため息をついた。
「それは違う。ナンセンスだよ、鷺ノ宮君。魂を削ってるんじゃない。魂を喰わせてるのさ。それが彼らの餌だ」
シエル症候群とは契約モンスターの力を引き出す為に契約者が自らの魂を差し出し続けた結果だ。
好感度とはお互いの精神のシンクロ率を示し、ただ仲が良ければ上昇するという訳ではない。
お互いの領域を侵していくからこそ、シエルデヴァイスの起動コードは"侵略"なのである。
そして、お互いの呼吸と気持ちと魂のやり取りをするからこそ、最終進化コードは"ファイティング・エヴォリューション"なのだ。
常に自分自身と、契約モンスターと、プレイヤーと戦い、勝ち続けられなくなった者が発症する。それがシエル症候群という奇病の正体である。
その説明を受け、鷺ノ宮は吐き気を催した。
漆原は一人でシエルカードゲームに必要なプログラムと装置を作った天才だ。
それを世に売り出して爆発的な人気に火をつけたのが鷺ノ宮という天才だ。
更にそれを世界中へ普及させ、莫大な金を動かしたのが進堂という天才だ。
「私は技術で、鷺ノ宮君は話術で、進堂君は策術で、頂点を取るって話してた頃が懐かしい。実現できて良かったね」
そう語る漆原に笑顔はない。他人が意識不明となっている事はどうでもいい事で、漆原 進歌は自分の目的を果たす為だけに研究を続けているのだ。
鷺ノ宮、進堂、漆原。それぞれの能力を認めた三人の天才は高校生の時に結託し、世界を取る約束をした。
その約束が果たされる日は目前まで迫っている。
「一つ、願いを聞いてくれないか」
「進堂君に怒られない事なら良いよ」
「あの子のシエルデヴァイスのリミッターを解除して欲しい」
「彼女に喋らせるつもり? 全ての過去を思い出す事になるけど――」
「構わない」
「大人になっても自分勝手だね。じゃあ、鷺ノ宮君にもしもの事があった時にそうなるようにしておくよ」
管理者権限で特定の人物のシエルデヴァイスにアクセスする。
これで鷺ノ宮の意識が失われた時、その者のシエルデヴァイスは全ての機能が実装されるように設定された。
【魅惑の小悪魔】→【魅惑の魔物】→【色欲の魔兎】
ランク:序→破→急
カテゴリー:devil
モチーフ:悪魔 アスモデウス
スキル:攻撃が通った時、相手を毒状態にする→相手を劇毒状態にし、一定の確率で行動不能にする
効果:このモンスターは相手モンスターの攻撃対象に選択されない
契約者:日本人 シン選手