第51話 vs中国代表-ランク急の代償
自分と同じ究極進化と自分と異なる絆を見せつけられた强は苛立ちから声を荒げた。
「【玉璽を攫む応龍】で攻撃ッ! 効果発動ッ!」
「【色欲の魔兎】の効果により、俺のモンスターは攻撃対象に選択出来ない!」
「関係ねぇ! いっけぇぇ!」
强の頭上を飛ぶ龍の口からは顎が外れる程の巨大な光弾が放たれた。
先程と同じ展開だが今回は光弾が一直線にシンを目指す。
両手で頭を庇い衝撃に備えていると、"ウェルヴェリアス"と呼ばれた女性型モンスターは両手を広げてシンの前に立った。
光弾は直撃する寸前に【色欲の魔兎】の効果により爆散し、シンは薄めを開けた。
「【色欲の魔兎】で【玉璽を攫む応龍】を攻撃ッ!」
これまでと異なり、尻尾を展開する必要はなくなったが彼女は踊るようにターンし、伸ばしきった蠍の尻尾を龍に突き刺した。
その途端、「ギィィヤァァァ」と会場中に悲痛な叫び声が木霊し、シンと强を含め、観客達が耳を塞ぐ。
悲鳴を上げる龍はリング上に沈み、身悶えてた。
「飛べよ、応龍!?」
「地を這うトカゲに俺達は止められない! 【色欲の魔兎】の攻撃」
「なっ!? 1ターン行動不能だとーッ!?」
【色欲の魔兎】のスキル『毒攻撃』は『劇毒攻撃』へ強化されており、状態異常は劇毒状態+確率で1ターンの行動制限となっている為、【玉璽を攫む応龍】は身動きが取れなくなっていた。
攻撃対象にならず、敵を劇毒状態かつ行動不能にする。基本ステータスの低い兎はそのデメリットを補って余りあるスキルと効果を持つ。
更にそんな悪魔を使役するシンは"魔王"と呼ぶに相応しい佇まいで、地を這う龍を見下ろしていた。
强に打つ手は無くなり、体力ゲージが0になった【玉璽を攫む応龍】はやがて消滅した。
シンが息を吐き切ると、拍手と大歓声が湧き上がり、一気に現実世界に引き戻されたかのような感覚が訪れる。
微笑んだ女性型モンスターに右手を突き出してカードを引き抜く。
更に笑みを深めた彼女は現実世界から姿を消したが、シンの顔と手に残る彼女の温もりが本当にこの世界に存在していたのだと証明していた。
『勝者はシン選手! これで本戦は終了! 世界最強の座を手にするのは誰だ!?』
司会者の言葉に観客達が歓声を上げる中、シンは胸の奥底の熱さから身を屈めていた。
心の奥をざわつかせる嫌な感覚はやがて指先まで伝わり、全身が震え始める。
同じように强も胸の痛みを自覚し、我慢出来ずに蹲っていた。
「かはっ。今日のは強烈だな!? 俺はこんな所で――」
尋常じゃない痛みに襲われた强はそのまま意識を失い、二度と目覚める事は無かった。
先程まで熱いバトルを繰り広げていた対戦相手に手を伸ばして叫んだが、シンの声にならない声は强に届かない。
ストレッチャーで運ばれていく彼を見守る事しか出来ないシンもスタッフに抱えられながら立ち上がり、ふらふらと控え室に向かった。
「お疲れ様、シン」
「Aimee選手」
「他人行儀が過ぎるよ。わたし達恋人でしょ」
待ち構えていたAimeeは倒れそうになるシンを抱き止めた。
「手紙読んでくれた?」
「これが代償なのか……」
「そう。ランク急は強力なカードだから契約者にも相当な負担がかかる」
シンの震える指先に指を絡めたAimeeは耳元で囁き、瞳を閉じた。
「シンの中に渦巻く劣情を受け止めてあげる」
「は? 何言って……」
口ではいつものように気怠げな言葉を紡いでいる筈なのにシンはAimeeの肩を抱き寄せ、その唇に自身の唇を押し当てていた。
自分でも何が起こっているのか理解出来ないままに貪る。
しかし、それだけで胸の奥のざわめきが消え去った。
「ごめん! 俺っ!」
「良いんだよ」
引き離された彼女はたったそれだけを伝え、閉会式の行われるスタジアムへと向かった。
一人残されたシンは呆然と立ち尽くし、震えなくなった指で潤む唇に触れるのだった。
【帝仕えの小動物】→【帝仕えの幻獣】→【玉璽を攫む応龍】
ランク:序→破→急
カテゴリー:mythical
モチーフ:四霊 応龍
効果:相手のモンスターがランク急に進化したターンにこのモンスターの攻撃が通った場合、相手モンスターの体力は必ず0になる。
契約者:中国人 强選手