表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/76

第50話 vs中国代表-月のない日に跳ぶ兎

 床を覆い尽くす黒い霧はやがて濃霧となり、シンを闇に溶け込ませた。


 霧の中から真っ先に現れたのは大きなスリットから覗く真っ白な素足。やけに高いヒールが床を鳴らす度にその姿がはっきりと見えていく。

 しなやかな指先の爪は長く、ネイルを施しているのかと見間違える程に艶やかだ。

 ドレスの胸元は大きく開かれ、自己主張の強い胸の半分ほどが露出している。背中も大きく開いており、漆黒の翼がはためいた。更にその下で蠍の尻尾をくねらせる。

 首元にはマフラー代わりの兎が巻き付き、鼻をヒクつかせていた。

 吸い込まれそうな赤い瞳に紫色に彩られた艶めかしい唇。

 艶のある黒髪ロングヘアの頭頂部には兎の耳と山羊の角が生えている。

 妖艶な女性型モンスターは友であるシンと連れ立って闇の中から姿を現わした。



『おぉぉっとぉぉ!? これが本当に【魅惑の魔物】の進化した姿なのか!?』

『これが世界で初めて契約された悪魔のカードです。テレビ的には刺激が強すぎるかもしれませんね』



 発狂する勢いの実況者と冷静にコンプライアンスを気にする解説者。そんな彼らを他所にシンと兎の最終形態である女性型モンスターは長く息をはいた。



「……【色欲しきよく魔兎まと】を召喚」



 未だに息遣いの荒いシンは何とかそのカード名を発した。

 ランク急への進化はプレイヤーにとって想像を絶する程の苦しさを伴う。シンは初めての感覚に戸惑っていた。



 いつまで経っても呼吸が整わず、地上で溺れそうになるシンの苦痛を察知したかのように【色欲の魔兎】は振り向き歩き出す。

 彼女は長身の上にヒールを履いている為、ちょうど胸の位置がシンの顔と同じ高さになる。

 そんな彼女は呼吸苦から顔を赤らめるシンの頭を抱き寄せ、露出している豊満な胸に押し当てた。

 ただでさえ苦しい中、更に圧迫されて窒息の二文字が脳裏を過ぎった時、急激に気道が解放され一気に空気が肺を満たした。



「っぷはぁ!」



 呼吸を思い出したかのように深呼吸を繰り返す事で体内に酸素が行き渡り、頭がクリアになる。

 そして、シンは思い出した。



 自分を見下ろす慈悲深い真っ赤な瞳を見つめ返したシンは右手を差し出した。

 彼女はシンの手に自分の手を重ね、微笑を浮かべる。



「思い出したよ。今日みたいな日は一緒に踊ってくれるんだよな、"ウェルヴェリアス"」



 まるでシンの声が届いているかのように彼女は頷いた。

 そのおごそかな表情とは裏腹に彼女の尻から生えている蠍の尻尾はブンブンと振り乱れている。

 その度に先端から透明の液体が飛び散り、床を腐敗させた。



 今宵は月の光が失われる朔の日。

 餅をつくには適さないが、シンの契約している兎は月の無い日に跳ぶ。



 妖艶な微笑みを浮かべる彼女は蹂躙すべき敵を睨み付けた。その赤い瞳に慈悲の念は無い。彼女の中に渦巻くのは怒りだけだ。



 それは、シンを傷つけようとしたジァンへの怒り。

 それは、シンを守れなかった自分への怒り。



 彼女は静かに友の声を待つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ