表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/76

第5話 ビギナーズラック

 翌日。

 朝からご機嫌なリョウと亜梨乃を適当にあしらいつつ放課後を迎えた。

 すぐに下駄箱へ向かい、途中で彼らと別れるつもりだったが、シンは亜梨乃に手を引かれ公式ショップに寄る事なく、目的地まで連行された。



「待て! 亜梨乃! 俺はまだっ」

「大丈夫! 大丈夫! 私達がついてる!」

「違う! まだ契約が……」



 シンの言葉を聞く事なく目的地であるゲームセンターに入ると、既に他校の生徒三人が待ち構えていた。



「来たな、蛇女。俺達に喧嘩を売った事を後悔させてやるぜ!」

「かっちゃんはマジで強いからな!」

「謝るなら今のうちだぜ!」



 好き好きに台詞を述べている彼らに対して、亜梨乃は敵意を剥き出しにしており、リョウもまた腕を組みながら睨みを利かしている。



 ゲームセンターでバトルを行う場合、アーケードゲームの盤上にシエルカードを置く事で画面に映像が映り、プレイヤーの指示でモンスターが行動する。

 しかし、契約済みでないと『error』と表示され、遊べない仕様となっている。



「……俺、こいつを使えないと思う」

「はぁ!? なんでだよ!」

「だから……」

「ほいっ!」



 未契約だという事を説明しようとしたシンの手を掴み、亜梨乃が盤上へカードをセットした。



「ほら、ちゃんと使えるじゃん! 私達がフォローするから、やってみようよ」



 内心、シンは焦っていた。

 このカードを手に入れたのは昨夜の事でまだ公式ショップでの契約は行っていない。

 だが、実際に認証されてしまった。

 故障か誤作動の可能性も捨てきれない為、このままバトルを続行する事にしたが不信感は拭い切れなかった。



 全てのカードがセットされた事でアーケードゲーム機の画面とゲームセンター内に設置された壁がけの大型テレビには左右三体ずつのモンスターが現れた。



 自陣には、しめ縄を巻いた亀、皮が乾ききった蛇、純白黒尾の兎。

 敵陣には、棍棒を持った小鬼、虎の体に象の鼻と牙に牛の尾を持つ謎の獣――ばく、背中の曲がった骸骨のように痩せた小人こびと

 どれも同じ大きさのモンスターでやけにリアルだった。



「見ろよ、ウサギがいるぜ」

「瞬殺っしょー」

「流石、蛇女のお友達だな」



 尚もシン達を馬鹿にする男子高校生三人組を気にせず、麻々乃のレクチャーが始まった。



「新シエルカードは旧シエルカードと違って、サポート系のカードは存在しない。個々のカードの強さとプレイヤーとの絆が力になる。シンはまだ好感度が低い筈だから言う事を聞かないかも」



 基本的な指示は攻撃、防御、回避の三つしかない。

 中級者以上になると進化や効果を用いて戦略と戦術を立てる事が出来る。

 バトルはターン性であり、素早さの能力値が高いと判断されたものから順に行動出来るという事だった。



「私とリョウ君が前衛、シン君が後衛ね」



 言われた通りにカードを動かすと、大画面の中の兎も後方へ動いた。

 そして、『侵略アンヴァズィオン』の文字が現れてバトルが始まった。



 一番始めに行動を促されたのはシンであり、彼は戸惑いながら麻々乃の方を向いた。

 麻々乃は防御を選択するように促し、シンは言われた通りにコマンド入力を行った。

 画面上の兎は何も反応を示さず、可愛らしく鼻をヒクヒクさせている。




「私は【干天かんてん小動物しょうどうぶつ】で【夢喰ゆめくい小動物しょうどうぶつ】を攻撃!」



 蛇に巻きつかれたばくが苦しそうな悲鳴を上げる。

 ばくの上にある体力ゲージが削られるも明確な数字は表示されない。



 これこそがシエルカードゲームの特徴である。

 体力、攻撃力、守備力は明記されず、契約したカード(モンスター)を信じて戦うしかないのだ。

 そして、そのカード(モンスター)が弱くても、契約を解除する事は絶対に出来ない。



「俺は【長寿ちょうじゅ小動物しょうどうぶつ】の防御力をアップさせる」



 リョウの契約モンスターである亀はどっしりと構え、一切動かない。



「【夢喰ゆめくい小動物しょうどうぶつ】で【干天かんてん小動物しょうどうぶつ】を攻撃!」

「俺も【干天かんてん小動物しょうどうぶつ】を攻撃!」



 ばくと骸骨のように痩せた小人こびとが亜梨乃の蛇を襲い、体力ゲージが大きく削られた。

 蛇の乾いた皮膚からは緑色の体液が滴り、リアルさに拍車がかかる。



「俺は【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】で【魅惑みわく小悪魔こあくま】を攻撃!」



 命令に従った朱色の小鬼が兎を蹴り飛ばす。

 防御を命じていた為、体力ゲージは大きく削られなかったが、兎は地面に叩きつけられ、キュウと小さく鳴いた。



「……あっ」



 亜梨乃が気遣って隣を見ると、拳を握り締めながら目を見開いたシンが立っていた。

 更にその隣ではリョウが歓喜していた。

 シンの昂った表情を見るのは何年振りだろうか。



「俺はッ!」



 ターンが一巡し、このゲームにおいて一番興味を示さなかったシンの声は誰よりも響いた。

 シエルカードゲームを映す大型テレビの前には数人の観客が居たが、彼の声は更に観客を増やす結果となった。



 初めて聞く低い声。

 威圧感さえ覚える雰囲気に亜梨乃は頬を赤らめ、麻々乃はタブレットのカメラを向けた。



「【魅惑みわく小悪魔こあくま】で【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】を攻撃ッ!」



 このゲームにおいて発声は何よりも重要である。

 彼は思いの丈をぶつけた。



 シンの声に呼応するかのように立ち上がった兎が勢い良く尻尾を敵に向ける。

 その瞬間、愛らしい真ん丸で真っ黒の尻尾が解き放たれた。

 それはまるで球体のブロックのように隙間が開き、目にも止まらぬ速度で伸びた。

 尻尾の先端を【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】の太腿に刺すと、元の真ん丸の尻尾へと戻した。



「その雑魚攻撃はなんだよ。デカイ声出しやがって」



 【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】の体力はわずかしか削られていなかった。

 だから、【魅惑みわく小悪魔こあくま】が"スキル"を持っているという事実をシン以外は気付いていなかった。



「かっちゃん、あれ…」

「あぁ?」



 画面に目を向けると【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】の状態を表す項目には紫色のフォントで『毒』と表示されていた。

 シンのターンが終了すると同時に体力を半分まで削られた【朱塗しゅぬり小妖怪しょうようかい】の太腿は真紫に変色していた。



「おい! あれって効果か?それともスキルか!?」

「だよな。激レアなバトルが見れるじゃん」



 気付くと大型テレビの周りには人集りが出来ており、彼らの興味はシンの持つ【魅惑みわく小悪魔こあくま】に注がれていた。



「やっぱ、お前は凄ぇや」



 肩を組んだリョウを見るシンの目は未だに燃えている。



「俺がお前のモンスターを守ってやる。俺の後ろに隠れて奴らを突き刺してやれ」



 短く返事をしたシンは毎ターン、攻撃の指示入力を行い、三体の敵モンスターは最終的に毒状態によるダメージで倒れた。



 初めてのシエルカードゲームでの勝利。

 この胸の高鳴りはこれまでのゲームでは感じた事の無いものだった。

 彼は今回のバトルをきっかけに甘美なる勝利と苦い思い出を刻む戦いの渦にその身を投じていく事になる。

【朱塗の小妖怪】

ランク:序

カテゴリー:ghostゴースト

モチーフ:妖怪 赤鬼

効果:不明

契約者:他校の男子高校生1


【夢喰の小動物】

ランク:序

カテゴリー:mythicalミシカル

モチーフ:幻獣 ばく

効果:不明

契約者:他校の男子高校生2


【厳冬の小人】

ランク:序

カテゴリー:spiritスピリット

モチーフ:精霊 ウェンディゴ

効果:不明

契約者:他校の男子高校生3

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ