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第4話 カードは届けられた

 数日が経過し、三対三のカードバトル前日になるとリョウと亜梨乃の落ち着きのなさは限界を迎えていた。

 それでも熱心にシンを誘う姿勢は崩さず、助っ人を連れてくるという考えは無いようだった。



「お前らなぁ、いい加減に……」



 呆れを通り越したシンが二人に一言、言ってやろうとした時、昼休み中の教室が騒ぎ出した。



進堂しんどう官房長官の緊急記者会見だって」



 各自のスマートフォンで記者会見を見始めた生徒達を誰も不思議には思わなかった。

 そんなにもこの高校に通う生徒達は政治に関心があるのか。

 答えは否だ。

 進堂官房長官とは歴代最年少で就任した若き政治家であり、自他共に認めるシエルカードゲームユーザーである。



 公務でもシエルカード関連の案件を扱っており、発売元の鷺ノ宮エンタープライズとも太いパイプを持っていると噂されている。

 若者の興味を惹く内容から会見を始め、核心へ至る内容へシフトしていく様子は支持層の厚さを物語っていた。



「次の総理大臣は決まりだな」

「さぁ、どうかな。鷺ノ宮とズブズブの関係なんだろ?」

「そういう噂もあるって話だ。でも、ガチ勢なのは間違いない。どのイベントでも上位十人には入ってる。バトルの腕前も一流だ」



 仕事しろよ、とツッコミたくなる気持ちを抑え、シンはスマートフォンをポケットに仕舞った。



 放課後。

 バイトに向うリョウと別れたシンは一人でカードショップに向かった。

 ここはシンとリョウが小学生の頃から続いている店で彼らのたまり場になっている。

 特に悪さをする訳ではないので店長も彼らを無碍に扱わなかった。



「おぉ、今日は一人か」

「あいつはバイトっす。いつも繁盛してますね」

「あぁ、こいつのおかげでな」



 店長が指差したのはガラスケースに展示されたガントレット型のアイテムであり、その隣には金色の盾が飾られている。

 この店はシエルカードアンバサダーに任命されており、一般的なカードショップよりも人の出入りは激しい方だ。



「ほれよ」

「これって……」



 レジ横の棚に置いてあった紙袋を渡されたシンが中身を引き上げると、出てきたのは未開封のパックだった。

 一般的なカードゲームと同じ大きさ、同じ厚みだが封入されているのはたった一枚。

 絶対にサーチ行為が不可能な、何が出るか誰にも分からない商品は人々を惹き付けて止まない。

 中から出てくるのは誰かが既に契約済みのカードの進化先かもしれない。

 或いは使えない程、弱いカードかもしれない。

 それは開封してみないと分からないが、その為には五万円が必要なのだ。

 高校生にとっての五万円は大金であり、カード一枚に出す金額では無い。

 それでも、親に頭を下げてでも手に入れたい輩がいるのは事実だ。



 シンは未開封パックを一瞥すると無言で紙袋に仕舞い直した。

 丁寧に折り目をなぞり、そっとレジカウンターに返す。



「……やっぱり、俺は今のシエルカードはやりません。母に心配をかけたくないんです」

「……そうか。そうだったな。悪かった」



 店長はそれ以上は何も言わず、紙袋から取り出した未開封パックを陳列棚へと移した。



 小学生時代のシンは現在のシエルカードゲームの前身である旧シエルカードのプレイヤーだった。

 しかし、カードを買いに行くと出て行ったある日、不慮の事故により道端で倒れ、三ヶ月もの間、意識不明の状態が続いた。

 無事に高校生となったが今でも母は息子の身を案じており、その気持ちを察せるような年頃になったシンは全てのゲームを絶った。



「そういえば、あの子、最近来ないな」

「あぁ、凪姉なぎねぇは勉強一筋の女子大生をやってるんで。俺もあんまり会わなくなりました」

「今度会ったら、よろしく伝えてくれ」



 カードショップを出て、一人帰路につく。

 シンは自分にも他人にも嘘をついている。その嘘とはシエルカードゲームに興味が無いというものだ。

 嘘を止めて、それに手を出してしまえば母を悲しませ、自分の目標を叶える足枷になるかもしれない。

 そう考えると足が竦んでしまうのだ。



 帰宅後、すぐに机に向かうつもりだったが、母に呼び止められ一通の封筒を渡された。

 自分宛だが送り主の名前は無く、郵便ポストに入っていたらしい。

 不信感を抱きつつも中身を傷つけないように開封すると、防水されたカードが現れた。



「……マジか」

「何だったの?」



 それは、まさしく一枚のシエルカードだった。

 ICカード乗車券のような厚みのあるシエルカードを初めて手にしたシンは気付かぬうちに目を輝かせていた。

 当然、母はその表情に気付く。



「良かったわね。これでリョウ君達と一緒に遊べるわね」

「……っ!? いや、俺は……っ!」

「私は大丈夫だから、今を楽しみなさい。高校二年生は人生で一度きりよ」



 シンは自室に籠り、改めてシエルカードをまじまじと見回した。

 裏面にイラストはなく、小さく『シエルカードゲーム』と書かれている。これは共通のフォーマットだ。

 表面には一般的にカード名、ランク、イラスト、効果が表記されている。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


魅惑みわく小悪魔こあくま

ランク序。

全体的に純白の体躯だが、チラリを見える漆黒の尻尾を持つ兎のイラストが描かれている。

通常攻撃は相手を毒状態にする、というスキルは書かれているが、効果は書かれていなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「兎だ。これって強いのか?」



 何度も何度も表裏を確認していると、忘れようとしていたカードゲームへの情熱が蘇り始めていた。

 これでバトルが出来ると思うと心が躍る。しかし、冷静になり契約しないといけない事を思い出す。

 カードを手に入れた、とだけリョウに連絡を入れて、母にも声をかけておく事にした。

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