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第38話 その一報は日本中を揺るがす

 季節は移り変わり、朝晩もめっきり寒くなった頃。シエルカードゲーム世界大会の各国代表が出揃ったというニュースはテレビでもネットでも取り上げられ、世界中が注目する催し物となっていた。

 開催までにはまだ一ヶ月以上あるが随所では既にお祭り騒ぎが始まっている。

 シンは開催国がアメリカに決定した時点でまったりとテレビ観戦するつもりでいた。



 日曜日、リビングのソファで【魅惑の小悪魔】と戯れるシンの元に一本の電話が掛かってきた。

 母親の声色が変わり、チラチラとこちらを見られると何か悪い事をしたのかと不安な気持ちになってしまう。

 全く心当たりのないシンは無表情を崩さないように努めながら純白黒尾の兎の背を撫でる。



「ちょっと電話に出られる?」



 重い腰を上げて恐る恐る受話器を耳に当てると、落ち着いた男性の声で要件を聞かされた。

 その内容が衝撃的過ぎて言葉を失ったシンは何も返答する事が出来ず、受話器を下ろした。

 ハッとしてスマートフォンを取り出しつつ、母にテレビを点けるように頼む。



『速報です。ただいま入りました情報によりますとシエルカードゲーム世界大会に日本代表として選出されていたカガリ選手こと、加賀かが 凛央りおさんが二ヶ月前から意識不明の状態で入院されているようです。これを受けて、鷺ノ宮エンタープライズは日本代表決定戦準優勝のシン選手を日本代表へ繰り上げる意向を固めました』



 ニュースキャスターが言っている事は先程、受話器越しに聞いた内容と全く同じものだった。

 スマートフォンからはメッセージの受信を知らせる電子音が鳴り止まず、電話もひっきりなしに掛かってくる。

 一番新しくディスプレイに表示されたのは冬姫ふゆひめこと黒川 冬姫ふぶきであり、シンは飛びつくように画面をタップした。



「もしもし、シン君? ニュースは見てるわよね」

「黒川さん! カガリさんは何か事故ですか?」

「分からないわ。でも二ヶ月間も公表を避けたのには何か理由があるかもしれない。個人的に色々と調べてみるけど、君は大丈夫?」

「何がなんだか。俺が世界と戦うんですか!?」

「そうなるわね。まだ日にちはあるから調整を始めなさい。私も力になるからいつでも連絡して来てちょうだい」



 予想外の展開で現実を受け止めれきれないシンは脱力し、ソファに腰掛けた。

 この一大イベントはオリンピックのような盛り上がりを見せている。となれば、日の丸を背負う事になり、勝敗によってはバッシングを受けるリスクを孕んでいると想像してしまった。

 シンにとってシエルカードとは、たった半年前に偶然始めたゲームであり、そこまでの責任を背負う度胸はない。

 辞退する為に鷺ノ宮エンタープライズに電話を掛けたが、担当者は取り込み中であると言われ渋々、電話を切った。



 あれから数日。シンは既に身バレしている為、連日、自宅や学校に報道関係者が詰めかけた。

 その度にマイクを向けられ写真を撮られたが一言も発さず、またしても世間からは様々な声が上がる事となった。

 鷺ノ宮エンタープライズ代表取締役社長からは「我が社、そして我が国の面子の為にも力になって欲しい」と頭を下げられている。

 見知らぬおじさんの頼みならともかく、鷺ノ宮 朝陽とは幼少期からの知り合いだ。

 過去にシンが入院していた事も承知しており、直接自宅に出向いて母にも頭を下げていた。



「俺はやっぱり無理だ。軽い気持ちで始めただけなんだよ。だから日本の代表で戦うなんて……。代表決定戦だって参加するつもりはなかったんだ」

「そうか。それは悪い事をしてしまった。すまない」

「ンドゥー選手や冬姫ふゆひめ選手ではダメなんですか!? 日本三強の二人なら不足は無い筈です」

「それは日本代表決定戦以前の話だ。今は君を含めて四天王と呼ばれている。君はそのNo.2だ。実際にンドゥーにも冬姫ふゆひめにも勝ってしまっているだろう?」



 そこまで言われてもまだ受け入れられない。

 一週間の猶予を与えられたシンは一旦、思考を放棄し、普通の高校生として生活する事に決めた。

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