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第37話 そうだ、西へ行こう

 二学期が始まるとすぐに修学旅行の準備が始まった。

 クラスメイトが好き好きに班を作っていく中、シン達はいつもの四人で一班を作った。

 流石に部屋は男女別々の為、シン、リョウ、金田、三好という四人で一部屋に泊まる事に決まった。

 行き先は関西地方であり、有名な観光地を巡る日程となっているが各班でスケジュールを組めるように配慮されていた。



 公式大会で敗れたカガリの顔を思い出しつつ、亜梨乃と麻々乃が作り上げるスケジュール表を眺めると観光名所やテーマパークを網羅するように予定が組まれており、かなりのハードスケジュールだった。

 時間の管理は麻々乃が徹底するだろうし、問題はないだろう。それよりも体力の問題が大きい。

 あの男性メンバーでしっかりと休めませて貰えるのか気がかりだが、文句を言っても仕方ないので成り行きに任せるつもりで準備を進めた。



 そして当日、駅に集められたシン達は順番に新幹線に乗り込み、目的へと出発した。

 新幹線内には家族連れやサラリーマン風の乗客も多く、所々に彼らの契約モンスターが席に座っていたが、シン達はモンスターの召喚を禁止されており、誰一人として契約モンスターを連れている者は居ない。



 目的地に着き、午後の短い時間で観光を終えたシン達は一泊目となるホテルへ移動した。

 夕食と入浴を終え、就寝時間までは自由時間となる。



「君達は佐藤姉妹と付き合っているのかい?」

「……は?」

「無い無い。俺らはそんな関係じゃないって。俺には彼女が居るし、シンには想い人が居るしな」

「……おい」

「マジかよ!」



 どうやらクラスメイトの目には相当仲良しに映っているらしい。

 そんな事を気にしないシンとリョウが迷いなく否定するとあからさまに金田と三好のテンションが上がった。



「お前らと居ない時に佐藤姉妹がどんだけ男子に声を掛けられてるか知ってるか?」

「知らないけど」

「勿論知ってるぜ。別に気にしてないけどな」

「なんで気にしないんだよ! そして、お前はもっと興味を持てよ!」



 一人で興奮し早口になる三好とシンの間には埋められない温度差があった。

 シンにとって亜梨乃と麻々乃は友人の一人であり、それ以上だと認識した事はない。それは彼女持ちのリョウにとっても同じだった。



「佐藤姉はコミュ力が高くていつも元気で可愛い。佐藤妹は控えめだがめっちゃ優しくて可愛い。どっちも人気なんだぞ。なぁ、金田」

「そうだとも。因みに僕は佐藤 麻々乃さんを推している」

「マジかよ! 俺は断然、佐藤姉派だな」



 男子二人が盛り上がる中、スマートフォンを取り出してアプリを起動したシンは召喚した【魅惑の小悪魔】とボール遊びを始めた。

 日本代表決定戦後、暫くの間は【果実を守護する幻獣】と【九尾の妖狐】に与えられた傷が癒えなかったが、今ではすっかり回復し今日も元気に跳ねている。



「安心しろよ、二人共。俺達は亜梨乃と麻々乃を恋愛対象としては見てねぇ。誰に告白されようが、彼氏が出来ようが、これまでと変わらねぇよ」

「あの二人は鴻上こうがみを好きだと思うんだけど違うのか?」

「知らねぇよ。仮にそうだとしてもシンは断るだろうな」

「……安易に想像出来るのが恐ろしい」



 お決まりの話題を一通り話し終えた四人は定刻通りに就寝する事にした。

 三好はしきりに女子部屋への侵入を促していたが、三人が無視し続ける事で諦めたようだった。

 翌日、教師をブチ切れさせた男子生徒が一定数居ると聞き、三好はシン達の無関心さに感謝したと言う。



 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので三泊四日の修学旅行も最後の一日になった。

 有名テーマパークで遊び尽くした一行はホテルに戻り、購入したお土産を含めて帰宅の準備を進めていた。

 地域が変わってもシンの知名度が変わる事はなく、一日に最低十人には声をかけられた。

 唯のカードゲームプレイヤーであったならば、同じ趣味を持つ者しかシンの事を知らないだろうが、大々的にバトルシーンがテレビ放送され、内閣総理大臣に名前を覚えられ、夕方のニュースにも映像が使われているのだから、国民の大多数が彼を知っていてもおかしくはないだろう。

 毎回、サインや握手や写真を求められ、その度に足が止まってしまうので亜梨乃と麻々乃の計画は大幅に狂ってしまった。

 彼女達の敗因はシンの知名度と人気を加味してスケジュールを立てなかった事になる。



「シン君がこんなにも人気になってるとは」

「あんたら、普段から一緒に居るから気にしてないかもだけど、あの二人って校内でも人気だからね」

「知ってるよー。リョウ君はともかく、シン君を取られない様にいつも一緒に居るんだから。ねぇ、麻々乃」

「そう。亜梨乃は欲深い女だから」

「でも鴻上君って恋愛とかに疎そうな印象だけど。告白を告白と捉えなさそう」

「そうだねー。一回だけ、告白シーンを覗いちゃった事があるけど、『そうなんだ、え、俺はどうすれば良いの?』って言ってたからね。あれはキツいよ」



 女子部屋でも恒例の話題で盛り上がる中、麻々乃が立ち上がった。

 財布とスマートフォンだけを持ち、扉の方へ向かう彼女を止める亜梨乃達だったが、麻々乃は一切聞く耳を持たない。



「買い物に行くだけ」

「もう就寝時間だよ。二日目の朝に男子が怒られてたし、止めた方が良いよ」

「そんなヘマはしない」



 そう言い残し、麻々乃は静かに扉を閉めた。

 彼女は比較的短気な亜梨乃と比較すると、大人しい印象を周囲に与えているが実際はそうではない。

 亜梨乃の知る妹は競争心が強く、突拍子もない事をしでかす時がある。

 まさか修学旅行中に、しかも家族以外の前でその一面を見せるとは思っておらず、動揺した亜梨乃は気が気で眠れなかった。

 就寝時間を大幅に過ぎた頃にひょっこり戻ってきた麻々乃は悪びれる様子もなく、「疲れた」と言い残し泥のように眠り始めた。



 こうして高校生活最大の行事を終えたシン達は、いよいよ始まるシエルカードゲーム世界大会を待ちわびるのだった。

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