表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/76

第35話 夏休みは長いようで短い

 目的地へと向かう電車の中、リョウはおもむろにスマートフォンを取り出し、三人に見えるように無言で画面を向けた。



「ええぇぇ! ランク急っ!?」

「煩い」

「どうやって、手に入れた!?」



 予想通りの反応を示す亜梨乃、麻々乃、シンを見回したリョウは満足げかつ得意げに頷いた。



「ランク破のカードもランク急のカードも買えたんだよ。ほら、これ見てみろよ」



 続いて見せられた画面には鷺ノ宮エンタープライズ公式が作ったサイトが表示されており、不要なシエルカードを高値で買い取り、必要としている契約者に定価で発売してくれるらしい。

 サイトにはリョウの持つ【長寿ちょうじゅの小動物】の進化先のカードが売られていた為、迷わず購入したという事だった。



「あとは好感度の問題」

「そうなんだよなー。まだランク急には進化出来ねぇんだよ」



 麻々乃はそのサイトの事を知っていたのか全く驚いた素振りはなく、痛い所を突いてきた。

 シエルカードゲームにおける好感度の上げ方については公表されておらず、どうすれば好感度が上がるのか、逆に下がるのか。好感度100%というのが容易いのか。困難なのか。

 契約者達は手探りで好感度上げを行なっている状況である。

 そんな中、シンと【魅惑の小悪魔】の好感度は仲間内でトップを誇っているがそれについても説明出来る者は居なかった。



「【干天の幻獣】の進化先も販売されているのか?」

「それがないんだよね。まだ未開封なのか、コレクターが持っているのか。もう少し様子を見ようかなって思ってる」

「シンのカードは当然ない。そもそも、devilデビルのカテゴリーが存在しなかった」



 そんな話をしながら向かっている場所は地元から一時間程の海辺である。

 折角の夏休みなのだからどこかに出掛けようと亜梨乃が提案したのだ。

 海に着くと早速水着に着替えたリョウと亜梨乃は大はしゃぎで駆けて行ってしまった。



「シン。この前はごめん」

「いや、俺こそごめん。麻々乃の言う通り、効果を発動していたら結果は違ったと思うし、カガリさんにも悪い事をしたと思う」

「シンは【色欲の魔兎】が手に入るなら世界大会に出場したいと思う?」

「……もういいかなって思ってる」



 シンは【魅惑の魔物】を送ってきたフランス人からの忠告がずっと気がかりだった。

 ランク序以外のカードを使用する事で何か弊害が起こるなら、それはもう唯のゲームではなくなってしまう。

 そこまでのリスクを冒して熱心にゲームを続けるつもりはなかった。



「二人とも早くこっちに来てよーっ!」



 波際で手を振る亜梨乃に手を振り返したシンは立ち上がる。



「行くか、麻々乃」

「でも、荷物が……」

「貴重品はないから大丈夫だろ。行くぞ!」



 麻々乃の腕を掴み、無理矢理に立ち上がらせたシンはそのまま二人の元へと駆けて行ったが、波際に近付くとさり気なく手を解かれてしまった。

 海をひとしきり楽しみ、食事をする事にした四人は一番繁盛している海の家に入った。

 他の店と異なり、タコが一度に十個の料理を運び、透き通る女性が店先に立っていたが、そんな異様とも取れる光景をスルーしてメニュー表の中にある文言に気付いたリョウがニヤリを笑っている姿をシンは見逃さなかった。



「よーし、亜梨乃。タダ飯食いに行くぞー」

「え? あぁ。良いよ!」

「そこで俺達の勇姿を見とけよ」



 焼きそば、ラーメン、かき氷などのメニューの最後には『店主夫婦にシエルカードゲームで勝てたらタダ! 負けたら+3000円!』と大きく書かれていた。

 その隣には夫婦の実績も書かれており、これまでに勝者は四組だけだった。



「今日、初めての挑戦者だ。気合い入れていくぜ」



 タオルを頭に巻き、腕まくりをする店主の隣で彼の妻は溜め息をついていた。

 彼女は無理矢理付き合わされているのだろうか、などと愚考していると店主は四つのシエルデヴァイスを取り出した。



「行くぜ、亜梨乃。負けたら俺が3000円多く払ってやるよ」

「おぉ! 男前だねー。蛇ちゃん、大活躍のチャンスだよ!」



 スマートフォンを取り出し、借りたシエルデヴァイスにセットしてアプリを起動させると四人は同時にシエルデヴァイスのディスクにカードをセットした。



「【長寿の小動物】を召喚」

「【干天の小動物】を召喚ー!」

「【多足鉤縄たそくかぎなわの小動物】を召喚だ」

「はぁ。【水瑞みずはなつかさど大精霊だいせいれい】を召喚」



 リョウの亀と亜梨乃の蛇は爬虫類の為、砂浜に召喚されてもサイズ感以外の違和感はなかったが、夫婦が契約しているタコと透き通る女性の姿をしたモンスターは砂浜に似合わないような気がしてならない。

 四体のモンスターの出現により瞬く間に人集りが出来る。

 シンは店主の妻がンドゥーと同様に初手でランク急のモンスターを召喚した事に驚き、言葉を失った。



「「「ランクアップ・エヴォリューション!」」」



 三人は進化を宣言し、同時に三体のモンスターが繭に包まれた。

 エメラルド色の蛇は小刻みに舌を出し入れし、タコは一層不気味に触手をうねらせ、亀は背中に山を背負う。



「お客様方、危なくなったら逃げて下さいね。【水瑞みずはなを司る大精霊】で【干天の幻獣】を攻撃」



 美しい女性型モンスターは歩み寄り、右手を振り上げて蛇の頭部を引っ叩いた。

 地味な攻撃モーションと異なり、亜梨乃のスマートフォンが振動して【干天の幻獣】の体力が削られる。



「何するんだよー! 【干天の幻獣】で【水瑞みずはなを司る大精霊】に攻撃ー!」



 ランク急だろうがお構いなしにビシッと女性型モンスターを指差しながら命令する亜梨乃に従い、蛇がギチギチと華奢な身体を締め付け、小ダメージが蓄積されていく。

 女性型モンスターの表情は人間に近く、苦しむ様子は一種のフェチシズムを刺激するものだった。



「【多足鉤縄たそくかぎなわの幻獣】の効果発動。これで地の利は俺達にある。【長寿の幻獣】に攻撃だ!」



 どのような理屈でこの事象が起きているのか理解出来ないが、店主の声と共に巨大なタコが十本の足で跳ね上がると全身から大量の水を撒き散らし、これまで砂浜だった場所は一瞬にして海へと変化した。

 シン達の膝下まで浸水した事で打ち上げられていたタコと女性型モンスターのコンビは水を得た魚のように活き活きとしているようだった。

 巨大なタコに絡め取られた亀は宙を舞い、水面に叩き付けられる。



「うおっ! 【長寿の幻獣】でタコ野郎を攻撃!」



 山を背負う亀は巨大なタコへ突進し、ぶつかった衝撃は海面を揺らした。

 その揺れは立っていられない程のものでよろけた麻々乃をシンが抱き留める形となってしまった。



「ごめん」

「いや、大丈夫か?」



 視線を戻すとジッとこちらを眺める亜梨乃の視線に気付き、応援のつもりで拳を突き出す。

 しかし、プイッと視線を逸らされたシンは怪訝そうに首を傾げていた。



「早く終わらせないと」



 隣に立つリョウにすら聞こえない程小さな舌打ちをした亜梨乃の目つきが変わったが、それは妹にしか分からない微々たる変化だった。



「ふふっ。【水瑞みずはなを司る大精霊】で【干天の幻獣】を攻撃」



 【多足鉤縄たそくかぎなわの幻獣】の効果で更にステータスが向上している彼女のモンスターは今度は左手を振り上げて蛇の頭部を引っ叩いた。

 野次馬からは「うわー」と言った引き気味の声も聞こえる中、バトルは激化していく。



「ッ! リョウ君、もう使っちゃうね。【干天の幻獣】の効果発動ー!」



 エメラルド色の蛇が限界まで身体を伸ばし、巨大なタコから溢れ出た水を全て堰き止めた。

 元の砂浜に戻った事でタコと水も滴る女性型モンスターは干上がり、ステータスが元に戻る。



「まさかデバフ系の効果持ちだったとは……。しかし、俺達夫婦は負けないぜ!」



 そう豪語しながら攻撃を宣言するも、【多足鉤縄たそくかぎなわの幻獣】の十本の触手は【干天の幻獣】には届かなかった。



「なんだ!?」

「【干天の幻獣】を対象に取り、【長寿の幻獣】の効果発動!」



 巨大な亀の背中から生える山々に遮られた【多足鉤縄たそくかぎなわの幻獣】の攻撃は無効化されてしまい、店主のターンが強制的に終了となる。



「何やってるのよ。【水瑞みずはなを司る大精霊】の効果発動。あなた、この勝負に勝てると思う?」

「勿論だとも!!」

「本当は?」

「無理かもしれん。こいつの効果が切れたし、お前のモンスターはランク急でも攻撃力が弱いし」



 先程までの勢いを無くし、妻に頭を下げた店主の発言を聞き終えた【水瑞みずはなを司る大精霊】が水色の瞳を閉じた瞬間、彼女の身体を形作っていた水が弾け、砂浜を濡らした。



「効果は失敗に終わったわ。あとはあなた一人で頑張って」



 二対一となった事でリョウと亜梨乃が優勢となり、次のターンで勝敗は決した。

 シン達はそれぞれが好きな物を注文しタダ飯に有り付いた上、五組目の勝者としてリョウと亜梨乃の写真が海の家に掲載される事になった。



「ご馳走様でした」

「若者は食いっぷりが良いな! 作ってて気持ち良いぜ」

「また来年、お世話になりますね」



 冗談を交じえながら店を出たリョウ達を追うように退店するシンは疑問だった事を店主に質問した。



「奥さんはどこに行ったんですか?」

「あぁ、裏で休ませてるんだ。あいつ、【水瑞みずはなを司る大精霊】を出して負けると体調を崩すんだよ。勝った時は逆にめちゃくちゃ元気になるんだけどな」



 夜が大変でよー、などと下ネタまで披露しながら豪快に笑う店主に頭を下げたシンは前を行く三人を追いかける。

 シンは気持ちの晴れないまま、高校二年生の夏休みを友人達と過ごすのだった。

【多足鉤縄の小動物】→【多足鉤縄の幻獣】

ランク:序→破

カテゴリー:mythicalミシカル

モチーフ:幻獣 クラーケン

効果:水に関連する味方モンスターのステータスを大幅に向上させる。

契約者:日本人 海の家の店主


【水の小人こびと】→【水の精霊】→【水瑞みずはなを司る大精霊】

ランク:序→破→急

カテゴリー:spiritスピリット

モチーフ:精霊 ウンディーネ

効果:契約者のパートナーが契約者やこのカードをけなすとバトルに負ける。

   バトルに勝利した場合、次のバトル時には1ターン目から

   【水瑞を司る大精霊】を召喚可能となる。

契約者:日本人 店主の妻

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ