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第34話 大人の取り交わし

 真っ暗な会議室の円卓に腰掛ける男が組んでいた指を解いて、語りかけると一斉に全てのモニターが点灯し、各国の首脳が映し出される。



「では、始めましょうか」



 今回の首脳会談は秘密裏に行われ、進堂内閣総理大臣は責められる立場だった。



「日本代表決定戦を見たぞ。あれはどういう事だ。何故、モンスターが現実世界に現れ、人間に危害を加えるのだ?」

「大統領、それは誤解ですよ。あれは偶然、攻撃が敵モンスターをすり抜けただけです」

「そういう事ではありません。何故、モンスターの攻撃が人間にも適応されるのか、という点を問いたいのです」

「恐れながら女王陛下。彼らも生きています。データ上の存在とは言え、鷺ノ宮エンタープライズが総力を上げて開発したプログラムにより現実世界に召喚される以上、仕方のない事です。問題が起こらないように対処する所存です」

「具体的はどのように?」

「憲法を作り、法で裁けるようにします。シエルカード絡みの問題を扱う部門を設け、プロフェッショナルの育成を開始しています」

「それは君の国だけだろう! 分かっているのか、進堂首相! 争いが起こるぞ!!」



 画面越しに大国の首相が怒りを露わにしているが、進堂は眉一つ動かさない。



「それは使う人間次第です。そのようにしかカードとモンスターを使えない輩は裁きを受けるでしょう。純粋にゲームを楽しんで貰えれば我々としては幸いです」

「そうだな。それに経済効果は絶大だ。視聴率も取れる。日本国民のみではなく、世界中の人々がシエルカードゲームに関心を持っている。世界大会はオリンピックと同程度の盛り上がりになるだろう」

「開催国はもうお決まりか?」

「いいえ、まだです。公平に抽選にしましょうか。それとも挙手制にしますか?」



 シエルカードゲームの表向きは唯のゲームだが、その裏では莫大な金が動いている。

 それこそ争いが勃発する可能性も否定出来ない程だ。

 しかし、契約モンスターで戦争をするというのは余りにも浅はかだと進堂は密かに鼻を鳴らすのだった。



 モニター越しに各国の首脳達が開催地について口論を繰り広げている。

 それも馬鹿らしくなり、進堂は予め準備しておいた箱を取り出したが、彼らはイカサマを懸念し抽選をさせなかった。



「では、どうしましょうか」

「一兆出資しよう。その金でカード刷り、我が国へ流せ」

「三兆でどうだ?」

「五兆出しましょう」

「十兆だ」



 それ以降は誰からも声は上がらない。

 流石は合衆国と言ったところか、進堂はニヤリと笑い、開催国を決定した。

 テレビ会談を終えると椅子の背にもたれかかり、だらけきった声で暗闇に声をかけた。



「聞こえただろ、鷺ノ宮。開催国はアメリカだ。そろそろ、カテゴリーAngelエンジェルのカードを解禁しよう。一組だけは渡したい者がいるから譲ってくれ。他のカードはどうなっている?」

「店舗の在庫は品切れ状態で本社にある分を出荷準備中だ。全てがプレイヤーの手に渡ったわけではないが、六割が契約済みだと報告が上がっている」

「コレクターと転売屋か。金で解決しろ。幸いな事に十兆手に入った。高値で買い取り、定価で持つべき者に与えるんだ。もっとランク急のカードを普及させたい」



 現在は内閣総理大臣と大企業の社長という肩書きを持つ二人だが、彼らは高校時代からの旧友であり、世間を賑わしているシエルカードゲームはもう一人の旧友と共に始めた一大事業である。

 進堂と鷺ノ宮はシエルカードを製造した時から、それぞれが思い描く世界を創る為に日々邁進しているが、互いの理想を語り合った事は一度もなかった。

 ただ共通しているのは「世界を取る」という抽象的で子供じみた目標だけだ。



「私がより良い世界を創る。鷺ノ宮も協力してくれるよな」



 その傲慢さは総理大臣の座に就いた事で増している印象だが、そのように驕る事が出来る程の能力を持っているのも事実だ。とは言え、大学生で企業した鷺ノ宮の手腕も無視できるものではない。



「教えてくれ、【天秤てんびんいだおおとり】と【純潔じゅんけつ聖騎士せいきし】のカードはどこにある?」

「知らないな。既に開封されて、誰かの手に渡っているだろう」

「本当か? 漆原うるしばらから聞いたぞ。お前は出来たてのカードを四枚持ち出し、二枚を隠して、【色欲の魔兎】と【嫉妬の魔猫】をランク破、ランク序にバラしたらしいじゃないか」

「【色欲の魔兎】と【嫉妬の魔猫】は手違いで工場へ輸送してしまったんだ、すまない」



 深く座り直した進堂は笑みを深くして、「そうか」とだけ呟いた。

 表情一つ変えずに嘘を突き通した鷺ノ宮は暗闇の会議室を出て、カテゴリーAngelエンジェルのカードを出荷するよう部下に指示を出すのだった。

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