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第32話 決勝戦

『遂に決勝戦だぁ! 勝つのは最強"九尾ナインテール"カガリ選手か! 突如現れた"魔王"シン選手か!バトルスタートォォッ!!』



「「侵略アンヴァズィオンッ!」」



 日曜日の昼下がりに生放送されているこの大会の視聴率は驚異的だった。

 更にネット掲示板でも実況されており、SNSのトレンドにも入っている。

 そんな盛り上がりを見せる大会の会場の雰囲気は更に熱かった。



「【多尾の小妖怪】を召喚」

「俺は【魅惑の小悪魔】を召喚」



 同時に出現する狐と兎。

 どちらも二回戦で負った傷は癒えていないが、体力だけは全回復していた。



「俺は【魅惑の小悪魔】で【多尾の小妖怪】を攻撃」



 シエルデヴァイスに『your turn』と表示された事で【魅惑の小悪魔】の方が素早いのだと知ったシンは迷わず音声入力を行い、忠実に従う兎は毒の尾を【多尾の小妖怪】の腹部に突き刺した。

 対するカガリは状態異常バッドステータスを与えるスキルを持つ攻撃をものともせず、指先にカードを挟んだ右手を振りかぶった。



「ランクアップ・エヴォリューション! 出てきぃ【多尾の妖怪】」



 五つの尾を持つ狐は鋭い牙が並ぶ巨大な口から吐息を吐いた。

 カテゴリーghostゴーストの中でも上位種である【多尾の妖怪】はランク破でも強力な効果を持ち、ワンショットキルが可能なカードである。



「まだイケる。【魅惑の小悪魔】の攻撃!」



 傷付いた体躯で腰を振り、毒の尻尾を伸ばす。

 二度も刺されて毒ダメージが倍になっても巨大な狐が怯む事はなく、双眸はシンと【魅惑の小悪魔】を睨みつけていた。



「【多尾の妖怪】で【魅惑の小悪魔】を攻撃や」



 五本の尾での連続攻撃が来ると身構えていたシンは回避を諦め、ワンキルを受け入れるつもりだったが【多尾の妖怪】の攻撃は一撃で終了し、体力ゲージが削られた。



「くっ。【魅惑の小悪魔】で攻撃!」

状態異常バッドステータスのスキルは強力やけど、ごり押し出来る程の攻撃力は無いみたいやな。そんなら、ホンマもんを見せたるわ。よぉ見とき」



 カガリはジャケットの胸ポケットから更にもう一枚のカードを取り出した。

 それは他の二枚とは異なる輝きを放つカードであり、離れているシンからでもそれが何か理解出来た。



「これが、俺とこいつの究極進化やッ!」



 そう宣言すると、これまでシンと【魅惑の小悪魔】を睨んでいた【多尾の妖怪】が振り向いた。

 カガリと巨大な狐の視線がぶつかり合い、互いの意思を確認するかのように無言の時間が過ぎる。

 何の合図もせずに一人と一匹が同時に空気を吸い込み、同時に息を吐き出すと、やがてカガリの呼吸のリズムと【多尾の妖怪】の呼吸パターンが同調されなくなっていく。

 きたい時にけず、吸いたい時に吸えない。そんなもどかしさと苦しみの中でもがき続けたカガリは肺の中に残った空気を絞り出すように叫んだ。



「ランクアップ・ファイティング・エヴォリューション!」



 ランク破への進化時の演出とは比べものにならない程の輝きを放ち、熱風が逆巻く。

 狐は増えた尾を振り乱し、更に巨大となった体躯はスタジアムの天井にぶつかりそうである。

 喉を鳴らしながら、観客席を見回す獰猛な獣の瞳に息を呑む。

 テレビカメラはいくら引いてもその姿の全貌を捉える事が出来ず、天井に設置されたカメラだけが九本の尾を持つ獣を映し出した。



「【九尾きゅうび妖狐ようこ】を召喚」


 

 肩を上下させるカガリは契約モンスターの本来の姿を日本中に晒した。

 彼らの好感度は100%であり、たとえ傷つけられても、劣勢でも、その気持ちに迷いは無い。

 互いの呼吸と揺るぎない想いのぶつかり合いが究極の進化を実現させるのだ。



「これが……ランク急のモンスター」



 【果実を守護する幻獣】も驚異的だったが、あのドラゴンを凌駕する【九尾の妖狐】を見上げるシンはバトル中にも関わらず、瞳を輝かせていた。




「えぇ顔してるで自分。次のターンで俺の勝ちやけど、ええか?」

「最後まで粘らせて貰いますよ。俺は【魅惑の小悪魔】を進化させる!」

「……ッ!? そうや、それや! バトルはこうでないとあかんねん! ええで、"魔王"! めっちゃおもろなってきたわ!!」



 シンと同様に瞳を輝かせるカガリは久々に胸を高鳴らせていた。



『シン選手、ここで進化宣言ダァぁぁぁ! ランク破のカードを所持していながら、この劣勢を楽しんでいたとでも言うのかッ!? さぁ、聞かせてくれぇぇぇ! シン選手の雄叫びをぉぉ!』



 リョウと亜梨乃が届けてくれたデッキケースの中から二枚目のカードを取り出し、天上へ掲げる。

 大きく足を広げ、恥ずかしさを振り払い、肺一杯に取り込んだ空気を吐き出した。



「ランクアップ・エヴォリューション!」



 シエルデヴァイスにセットされた【魅惑の小悪魔】のカードに重ねられる【魅惑の魔物】のカード。

 シンの声に応えるように兎が繭に包まれ、輝きを放ちながら繭が開く。



「これが……進化」

「準備は終わったか? ほな、本気でぃや」



 両耳の少し前から二本の山羊やぎの角が生え、口からは二本の犬歯が見え隠れしている。

 背中からは尻尾と同じ漆黒の翼が生え、より禍々しく、巨大な兎の姿へと変貌を遂げた。



 もしも"魔王"がランク急のカードを握っていたら、と内心焦るカガリはシンの出方を窺いたかったが、長期戦に持ち込まれると毒のダメージを無視出来なくなる為、攻撃を選択した。



「【九尾の妖狐】で【魅惑の魔物】を攻撃! 効果発動ッ! 【九尾の妖狐】はバトル中に一回だけ、一度の攻撃で尾の本数分の攻撃が可能となる。よって、俺は九回の攻撃を叩き込むでぇ!」



 会場の盛り上がりは最高潮に達し、観客は一進一退の攻防をその目に焼き付けるように、視聴者はテレビに食い入るように勝負の行く末を見守った。

 そして、誰もがシンの悪あがきを望んでいた。



 しかし、観客や視聴者の期待を裏切るように彼はシエルデヴァイスを装着する左腕を下ろしたが、その様子は煙に巻かれて、肉眼でもカメラでも捉えられなかった。

 迫り来る巨大で獰猛な妖狐を目前にして、シンと【魅惑の魔物】は一歩も動かない。



「悪いな。俺の事を嫌いになっても良いよ」



 そんな呟きが聞こえたのか、角と翼を生やした兎は真紅の瞳を閉じて歯を食いしばった。

 残された体力ゲージはたった二回の攻撃で0になったが、残り七回の攻撃は止まらず、全ての攻撃が終わる頃には山羊やぎの角は折れ、漆黒の羽が引き千切られていた。

 攻撃の風圧でシンはスタジアムから転落し、その足下にオーバーキルされた兎が転がった。



 既に意識の無い兎を現実世界からアプリ内へ戻す為にシエルデヴァイスから二枚のカードを引き抜く。

 跡形もなく消滅した【魅惑の魔物】を見届けたシンはスタジアム上で腕を組む日本最強の男とその相棒を見上げるのだった。

【多尾の小妖怪】→【多尾の妖怪】→【九尾の妖狐】

ランク:序→破→急

カテゴリー:ghostゴースト

モチーフ:妖怪 九尾の狐

効果:バトル中に一度だけ、尾の本数分の攻撃が可能となる。

契約者:日本人 カガリ選手

異名:九尾ナインテール、チャンピオン

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