第31話 二回戦-第二試合
もう一つの試合はシンと冬姫のバトルよりも地味だった。
皇と【呈色の小動物】の戦い方は先制攻撃を受け、流れ落ちた血液で敵の行動を制限するというものだ。
一度攻撃を受ければ彼女の勝利は揺るがないだろうが、それは所見殺しの戦術であり、初戦を観ているカガリには通用しなかった。
更にイレギュラーな事態にも見舞われて、彼女はいつもの戦闘スタイルを変更せざるを得なかった。
(何で出血してるのっ!? もしかして、さっきの傷が治ってない!? 体力ゲージは全回復してるのにっ……?)
ほぼ無傷で初戦を終えているカガリの契約モンスターと異なり、【呈色の小動物】の体には【騎士の妖精】とのバトルで負った傷が残っており、そこからの出血がまだ続いていた。
皇の指示に従って飛翔した【呈色の小動物】が五彩の文様の描かれた翼をはばたかせる毎にスタジアム上に血痕が残る。
「飛んでばっかりもえぇけど、次のターンで終わるでぇ。俺、決勝戦であいつと戦いたいねん」
「チャンピオンの胸を借りるつもりですので、どうぞっ!」
カガリは既に【多尾の小妖怪】を【多尾の妖怪】へ進化させており、攻撃の準備は整っている。
先程から【呈色の小動物】は上空からの攻撃を繰り返しており、少量ずつだが【多尾の妖怪】の体力を削っていた。
「ほな、行こか。【多尾の妖怪】で攻撃ッ! 効果発動や!」
「耐えて、【呈色の小動物】!」
五本の尾での連続攻撃を受け、青い羽根を撒き散らしながら粘度の高い血液がスタジアム中に飛び散る。
体力ゲージは大幅に削られていき、あっという間に逆転された【呈色の小動物】は体力が0になると同時に現実世界から消滅した。
「厄介な相手やで、ほんま」
「ありがとうございますっ。良い経験になりましたっ」
皇はバトルに負けても最後まで笑顔でチャンピオンへのリスペクトの姿勢を崩さず、そんな彼女に感化されたのかカガリは純粋なアドバイスを送り、スタジアムを後にしたのだった。
* * *
決勝戦の相手が決まり、緊張の面持ちで選手席に座るシンの隣に皇が腰掛けた。
数分前までバトルをしていたとは思えない程に元気な彼女はシンのスマートフォンを覗き込む。
「兎さんは回復したのっ?」
「いや、まだ耳が治らない。どういうシステムなんだ…」
「実はあたしの鸞も傷が治りきってなかったんだよねっ。ピンっときて、チャンピオンの狐にダメージを与えておいたから、少しは勝てる見込みがあるかもっ」
「……そんな事を考えながら戦っていたのか?」
「どうせ負けるなら次の人に繋ぎたいじゃんっ。頑張ってねっ」
決勝戦までには時間があり、シンと皇は雑談の流れで自分達のユーザーネームについて話し合う事になった。
「俺は小学校の頃から本名よりも"シン"って呼ばれる事が多かったから、そのまま登録した」
「そうなんだっ。あたしも中学のあだ名をそのままにしたんだっ」
「皇って格好良いよな」
「スメル柊の略で"スメラギ"なんだよ。昔虐められててね、その時のあだ名。今思うと、かなり酷いよねっ」
彼女はいつも笑っているが、その笑顔の下には何か底知れぬものが潜んでいるのではないかと勘ぐってしまったシンはどのように返答すれば良いのか分からず、黙りこくった。
「ゴメンっ。気にしないでっ! 別に今は虐められてないし、皇って漢字は結構、気に入っているから」
「……そっか」
「シン君は何でシン君なのっ? 本名とは全然違うよねっ」
「……覚えてないんだ。気付いたら、そう呼ばれてた」
「へ~。ねぇ、本名で呼んでも良いかなっ」
「止めてくれ。こっちの方に慣れてるから今更恥ずかしいんだよ」
「ちぇっ、残念だなっ~」
選手席にアナウンスが流れ、シンは立ち上がった。
日本各地から参加した約一万人の頂点に立つのはシンか、カガリか。
勝者は正式に日本最強の称号を得て、日本代表として世界大会に出場する事になる。
シンはスタジアムへと続く廊下を歩き出したが、皇と話したお陰で先程よりもリラックスした表情で声援を送ってくれる彼女に手を振った。
【呈色の小動物】
ランク:序
カテゴリー:mythical
モチーフ:幻獣 鸞
効果:相手の攻撃を受けた場合にのみ発動可能。
血液に触れた相手の攻撃・防御・回避の行動を封じ、進化・降伏のどちらか
を選択させる。
契約者:日本人 皇選手