第29話 初戦-第四試合
ここまで完全勝利を収めたのは冬姫だけだが、遂に本命が現れた。
『第四試合、この男の登場だぁ! 日本最強"九尾"カガリ選手! 対するは高学歴プレイヤー国立選手!」
今日一番の大きな歓声と拍手で出迎えられたカガリに緊張した様子はなかったが、アウェーの空気感で戦う国立は非常にやりにくそうにしていた。
「「侵略」」
二人が同時にカードをシエルデヴァイスにセットし、モンスターが召喚される。
「俺は【多尾の小妖怪】を召喚するでぇ」
「僕は【勤労の小動物】を召喚します」
カガリの使役する【多尾の小妖怪】は小さな狐であり、その名とは裏腹に尾は一本しかなく、可愛らしく目を細めている。
対して【勤労の小動物】は狼の顔、白鳥のくちばし、熊の胴体、鶏の足、犬の尾を持つ獣だった。
「俺のターンや。出て来ぃ【多尾の妖怪】。ランクアップ・エヴォリューション」
何の迷いも無く、音声入力と二枚目のカードセットを行うカガリの前には進化を終えた狐が繭の中から姿を現した。
その尾は五本に増えており、牙も爪も鋭くなっている。
「僕は【勤労の小動物】の効果を発動し、攻撃を宣言します」
スーツのボタンを外した国立が【多尾の妖怪】を指さすと命令に従う【勤労の小動物】が飛び掛かった。
何かしらの効果が発動している筈だが、見た目の変化は無く、通常攻撃が繰り出されようとしている。
「今の【勤労の小動物】のステータスは大幅に飛躍している筈だ!」
「ほな、受けてみよか」
【勤労の小動物】の攻撃は狐に通り、体力ゲージを削ったが驚く程ではなかった。
不思議そうにシエルデヴァイスを確認するカガリと驚愕する国立。彼らの反応の違いに観客や視聴者は困惑した。
そんな空気を察して、解説者である田中がマイクを口元に近づけた時、彼よりも先にスタジアム上でその理由が語られた。
「そ、そんな……僕は国立大学の助教授だぞ。君みたいなゲームばかりしている人間じゃない! 何故、仕事をしている僕が勝てないんだ」
「え、仕事? 俺、無職やと思われてんの!? めっちゃ心外なんやけど」
爆笑しながら膝を叩くカガリは笑い涙を拭きながら目を細めた。
「俺、こう見えて消防士やねん。どう見えてるか知らんけど。さっきから出動命令の電話が喧しぃて、困ってんねん。俺は大事な試合中やっちゅうねん。ほな、そろそろ決めるでー」
右手を掲げ、一気に振り下ろす。
たったそれだけで【多尾の妖怪】は【勤労の小動物】へ向って全力で走り出し、五つの尾を広げた。
「【多尾の妖怪】の攻撃」
一本の尾に叩かれた【勤労の小動物】はよろめいたが、まだ体力ゲージには余裕があり、国立もまだ希望を捨てていなかった。と言うよりも現実を受け入れられていなかった。
これまで彼は自分の学歴と職歴を武器に戦ってきたのだ。
だからこそ、ゲーム漬けの日々を送りチャンピオンに成り上がったカガリにも勝てると思っていたが、それは彼の誤認だった。
「まだ俺のターンやでぇ」
不気味な声が国立の耳に届き、彼の表情が強ばる。
【多尾の妖怪】は残り四本の尾で攻撃を続け、瞬く間に【勤労の小動物】の体力ゲージを削っていく。
そして、最後の一本が獣の腹部を貫いた。
「俺、カードゲーム好きやけど、仕事も好きなんよ。人生は学歴だけやないと思うし、このゲームはカードの能力値だけやない。もっと自分と契約カードを信じたらなあかんで」
その言葉を最後にカガリの勝利が確定した。
シエルカードゲームは基本性能が低くても特殊な効果やスキルを持つカードが多く存在する。
どれだけ契約カードを理解し、信じ抜き、戦略を立てるかによって勝敗が左右するのだ。
日本チャンピオンであるカガリはそれを誰よりも知っている。だからこそ、彼はチャンピオンなのだ。
【勤労の小動物】
ランク:序
カテゴリー:mythical
モチーフ:幻獣 キキーモラ
効果:契約者が就労していれば、相手との就労の差によりステータスが向上する。
契約者が就労していなければ、このカードはバトルで使用できない。
契約者:日本人 国立選手




