第15話 本戦-準決勝戦
精神的な動揺はあったが、シンは頬を叩き、スポットライトの当たるスタジアムへ上がった。
観客達の声がはっきりと聞こえる。
何台ものカメラに撮られる。
先程の一件もあり、逃げ出したくなる気持ちを押し殺して目を閉じた。
「さっきの試合は見事だったね。僕とは正々堂々戦おうね」
ベストフォーへと進出したのは日本出身のシン。
アメリカ出身のウィリアム。
韓国出身のミン。
フランス出身のAimee。
今回、シンの対戦相手はアイドル顔負けのイケメンで韓国の人気WeTuberである。
「「侵略」」
シエルデヴァイスが起動し、二人は同時にカードをセットした。
「【魅惑の小悪魔】を召喚」
「【食財を貪る小神】を召喚するね」
純白の兎と同時に現れたのは異形の怪物だった。
その体は起立した牛であり、マンモスような曲がった角、虎の牙、熊の爪を持つ。
ホログラムとは思えない程、リアルな鼻息を吹き出す怪物はランク序のモンスターにも関わらず人間よりも巨大な体躯をしている。
「君のモンスターは実に魅力的なスキルを持っているね。でも、それは僕のモンスターだって同じなんだよね」
大人しく待機している兎を見下ろすシンは小さく微笑んだ。
「正々堂々か。なら……俺は防御を命じる」
「良い判断だね。僕は【食財を貪る小神】の効果を発動するね」
空気を揺るがす程の雄叫びを上げる怪物は背中を曲げ、足元にも及ばない兎へと顔を近付けた。
【食財を貪る小神】の巨大な瞳と【魅惑の小悪魔】のつぶらな瞳がぶつかり合い、静かな闘争が始まった。
それはモンスター同士にしか理解出来ない境地。
体格差をもろともせずに睨み返す兎の勇敢さは大スクリーンに映し出され、全世界中に放送された。
二人は契約モンスターを信じて、その勝負の行く末を黙って見守る。
シン達のブロックは静かなる戦いを繰り広げていたが、反対側のブロックは派手で激しく観客を沸かせていた。
それでもシンとミンは自分自身のモンスターから目を離さなかった。
そして暫しの静寂が遂に破られる。
怪物の呼吸が速くなり、荒くなっていく。
その度に吹き飛ばされそうになる兎は見開いた目を決して閉じなかった。
【食財を貪る小神】の巨大な瞳の奥には畏怖の念が湧き上がり、全身を震え上がらせていた。
「……僕の負けみたいだね」
その直後、シエルデヴァイスと大型スクリーンには『winner』の文字と同時にシンの顔が映し出された。
「よく逃げなかったな。お疲れ様」
その声が兎に届いているかは分からない。
しかし、シンは一声かけたくて仕方がなくなってしまった。
今日だけで異なる三つのバトルを共にした相棒は既にスマートフォンの中に戻り、丸まって眠っていた。
「おめでとう」
「ありがとうございます。さっきのはどういう事ですか?」
「あー、それはね。【食財を貪る小神】は自分よりも弱いカードには絶対勝てるけど、自分よりも強いカードには絶対負ける効果を持っているんだよね。だから、僕は無駄な指示をしないんだ」
「そうですか」
「君が噂の人物か。決勝戦が楽しみだね」
二人が握手を交わしている最中、もう一つのバトルが終わった。
勝者はフランスから来たAimeeという名の選手だ。
キャスケットを目深に被っている為、顔はよく見えず、服装からも性別は判断出来ない。
バトル前に聞いた声も中性的で何とも断定した事は言えなかった。
「君は早く控室に行った方が良い。カメラ面倒だよね?」
ミンに背中を押されて早々に帰室したシンは彼の心意気に尊敬の念を抱くのだった。
【食財を貪る小神】
ランク:序
カテゴリー:god
モチーフ:四凶 饕餮
効果:自分よりも弱いカードには百パーセント勝てる。自分よりも強いカードには百パーセント負ける。
契約者:韓国人 ミン選手




