【70】火龍召喚(6)
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龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。
「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。
されど、ザンダルは驚いた様子を見せず、素直に頭を下げて謝罪の意志を表した。
「言わずに済ませることは許されぬという訳ですね。
私が甘うございました」
*
赤の牧人
未来を見よ。
我はここに世界を編む。
*
魔族。それはこの世界において、火龍と並んで恐れるべき存在である。
かつて、神々さえ滅ぼして、この世界を支配していた古代の魔物たちである。
諸侯と数えられる有名なものだけで91騎。
さきほど召喚され、死の気配で城砦全体を包んだ《赤い目の侯爵スゴン》ですら、魔族の中では大物とは言えぬ。彼は侯爵位でしかない。
ゆえに、他の魔族も出現するというエリシェ・アリオラの言葉は衝撃的であった。
されど、ザンダルは驚いた様子を見せず、素直に頭を下げて謝罪の意志を表した。
「言わずに済ませることは許されぬという訳ですね。
私が甘うございました」
そして、カスリーンの方を向く。
「我が旅路の間に、3騎の魔族の姿を確認しております。
それらはいずれも南洋におりました」
背後でルーニクがうなずく。
「1騎は、海の騎士スボターンと呼ばれる海魔の戦士」とザンダルが指を折る。「1騎は、津波の王ラシーグと呼ばれる巨大な海蛇で、これは、海王ルーニクがこの槍で一旦は沈めましたが、そもそも、魔族は死ぬようなやからではありませぬ」
そう、魔族たちは死なない。ゆえに恐ろしい存在だ。
「最後の1騎は宝玉の大公バーグロー。天空に封じられし白銀の怪物。それはこの城ほども大きな銀の球体でございます」
どこでザンダルは、エリシェの方に向き直る。
「エリシェ殿は、それらの動向も把握されておられますよね?」
「そのために、私がここにおる」
《棘のある雛菊》こと魔道師エリシェ・アリオラは、少女のような外見だが、本来はこの場にいる誰よりも、年上である。魔族《鏡の公女エリシェ》に名前と魂を捧げ、その下僕たる少女の姿の魔物に生まれ変わった。
「ラシーグは、まだ、海の底で傷を癒やしておる。まあ、その辺は海王であるルーニクの方が詳しかろうよ」
話を振られ、渦の海の海王である若者がうなずく。
「闇の海の海王ウィンネッケと、光の海の海王ザラシュ=ネパードが海の魔族どもを見張っている。ラシーグは動いていないが、スボターンは姿を消した。カーフュンの死人使いゾラの支配するショラールの河口に向かったようなので、ミスタクタイズ河の支流から上がってくるかもしれぬな」
中原の西側を区切る大河ミスタクタイズは、北原、ロクド山系の南部に水源を持つ大河で、この大河を越えた向こう側はもはや中原ではなく、オメラスと呼ばれている。オメラス地域は統一した支配権がなく、流域は北側から関門領、ダルダッド湖地方、ジェブヴェエリルの森、ショラール三角州の四つに分かれている。海の騎士スボターンが消えたのはその南端にあるカーフュンの河口である。この地域は、ゾラと名乗る死人使いが支配し、ルーニクら海王と対立している。
ミスタクタイズ河の小さな支流が何本か、中原にも流れ込んでいる。この一本を運河でルケリア河とつないだのが、ユパ王国繁栄の始まりでもある。聖なる山ルケを水源とするルケリア河は、そのまま、南へと伸びているが、同時に、城砦の目の前にある運河の水の供給元でもある。南洋に封印されていた魔族が、水の流れを辿って遡上してくるのであれば、この運河までやってくることが出来る。
「宝玉の大公は?」とザンダルが問う。
「バーグローは雲海の中を北上しておる。あれは確実に来るな」とエリシェが答える。
「私は青龍座ゆえ、魔族の力は専門外だが、バーグローとは?」とザンダルが唸る。魔道師とて万能ではない。十二と一つの塔ごとに専門分野があり、青龍座は名前の通り、火龍が専門だ。すべての魔族の力を把握している訳ではない。
「それこそ我らの専門」とエリシェが微笑む。「だが、宝玉の大公バーグローの力がすべて分かっている訳ではない。あれは雷鳴の魔族の一族らしいが、空を飛び、稲妻を操ることしか分かっておらぬ。宝玉の大公なる称号の理由もわからぬし、もともとの姿もわからぬ。現在、見える巨大な銀の球体という姿も、本来の力をすべて封じられた結果という」
「エリシェ殿が知らぬことは対処できぬな」
「ちょっといいか?」と手を上げたのは、カスリーンの異母弟で、西方平原の姫を母に持つアル・ストラガナ侯である。「我が故国に、天球教団という異端の結社があり、そやつらは、お前たちの言うバーグローを天球神と呼んでいる」
妖精騎士の支配が残る中原以外の土地では、魔族がある宗派の神として信仰されている例がある。平原で活動する騎馬民族の騎兵たちを率いるアル・ストラガナ侯は、兵のひとりから教団の神話を聞いていたそうだ。
「そいつらの祈りにこうある。『天球神バーグローが力ある玉座を見出した時、そのすべての力を取り戻し、たった1本の矢で、天の火龍を撃ち落とす』のだそうだ」
★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中を転載しているものです。
http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/




