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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
65/74

【65】火龍召喚(1)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


召喚の儀式は、魔法的な存在を呼び出し、使役するものである。

そのために必要となるものがいくつかある。




白の黒剣


血が一滴、滴った。

無用の闇から、今、何かが誕生し、

世界に波紋をもたらしていく。



「歌の龍王。それは夢を超える歌い手にございます」


 召喚の儀式は、魔法的な存在を呼び出し、使役するものである。

 そのために必要となるものがいくつかある。


 まず、魔法陣。

 12とひとつの星座の中から、召喚する者の属する星座を正しく組み込まなくてはならない。

 それにより、その魔法陣は召喚に使える魔法の力を持つ。

 フェムレンはラグレッタ城砦の城館の上に、青龍の魔法陣を描いた。青龍は火龍を象徴する星座である。それも、12重とさらに一重。合計して13はこの世界の魔法を語る上で重要な数字であり、事実上、魔道師が描くことのできる最大の魔法陣である。


 さらに、呪文。

 召喚という行為を対象に正しく届け、その魂を示す名前を縛り、使役するための交渉内容をも組み込んだものだ。魔法的な存在との契約交渉というべき内容であるが、妖精騎士や神々の眷属が用いる上代語、という古語で制作されるため、上代語を知らぬ者からは、神秘的に聞こえるかもしれない。


 ただ、ここにひとつの問題がある。

 名前が、空白だ。


 歌の龍王は、存在した。

この龍骨の野にて、それらしき骨を採集した。

だから、召喚も出来る。

 だが、名前が空白であれば、名前を縛って使役することが出来ない可能性がある。


「代案は、そこにある」とフェムレンがザンダルの持つ槍を指す。「龍を殺すことを目的とする魔族《赤き瞳の侯爵スゴン》ならば、歌の龍王の名前を知っていよう」

 ザンダルは、うなずいた。

 想定範囲内のことだ。


 これもまた《策謀》の一部。


 鉄の公女カスリーンの回廊で、龍殺しの魔族《赤き瞳の侯爵スゴン》を召喚するための言い訳が用意された。

「だが、《スゴン》は、棍棒王ラ・ダルカの守護神でもある」とザンダルは指摘する。「今、召喚すれば、あの土鬼の群れに力を与えかねない」

 その危険性を、フェムレンとザンダルはずっと検討してきた。五分五分だ。歌の龍王の名前を知り、龍王の召喚を果たせれば、土鬼を放逐し、レ・ドーラを防衛できる。レ・ドーラ辺境伯たるカスリーンの領地は安定する。だが、土鬼が力を増す可能性があるし、火龍が暴走する可能性もある。

「だから、時期を前倒ししたのであろう、ザンダル」

 カスリーンはためらわない。

「常に、滅びの可能性はある。そして、スゴンが暴走するなら、土鬼との戦いの最中でないほうがよい、という結論だったはず。

 ザンダルよ、お前の龍の魂は怯えておるのか?」

 彼女の言う通りだ。

 躊躇いは、青龍の魔道師にもっともふさわしくないことだ。


「その通り」と、別の声が割り込む。色めいた女性の声。

「やはり来たか、赤き瞳の巫女ドレンダル」

 それは魔族《赤き瞳の侯爵スゴン》に仕える魔女の名前。

「我を警戒しておるのであろう」

 どこから現れたか、真っ赤なドレスをまとった魔女は、ゆっくりと魔法陣を回り込み、フェムレンの横に立つ。

「ならば、我も召喚の儀に参加しよう。身を隠すより、そなたらも安心であろう。これでも、青龍の刻印も持っておる」

 上げて見せた右手の甲に青い龍の鱗が見える。

「どれほどの刻印をその身に刻んでおるのだ?」とザンダルがうめく。

この魔女の周囲には多彩な魔法の気配が渦巻いている。それは人としての限界を超えている。本来、魔法は人の子の手に余るもの。魔道師やまじない師は、その身に魔法の刻印を刻み込み、魔法の焦点とするが、刻印が増えれば暴走の危険性も増す。やがて、制御できなくなり、魔力に飲み込まれ、人ならぬ異形の存在に成り果てることになる。

「そういうな、ザンダル。お前の仕える姫もまた」

 その視線はカスリーンに向いている。


「魔女め」とカスリーンが左腕を覆う鉄の小手を外す。そこには青い鱗に包まれた手があり、人差し指の爪は削ってあるものの、明らかに人のものよりも厚い。伸びれば、龍の鉤爪のようになるが、少しでも人の子のものに見せようと、やすりと刃物で形を整えてある。

「カスリーン様、誠にすいません」とザンダルがひざまずき、頭を垂れる。

「気にするな。魔道師に隠すことは出来ぬ」

 カスリーンの声に特段、感情はない。

 もともと、側近のコーディルやおつきの侍女は知っていること。家族が彼女の独立を黙認するのは、この忌まわしき青龍の左腕のせいでもある。その他の者に知られることも、ザンダルが帰還し、魔道師たちが宮廷に出入りするようになってから、予測していた事態だ。「それに・・・」と彼女は内心付け加えた。アナベル・ラズーリの存在も大きい。もとより魔族の信徒であるアナベルは異形の刻印を、恩寵とみなし、それを恐れたりしない。

「お強いのですね……」

と、ドレンダルが微笑んだが、続く言葉を紡ぐ前に目を伏せた。

 その背後に、別の者が姿を表したからだ。

 一見、少女にしか見えないその姿からは、忌まわしき気配が放たれている。

「黙れ」

 少女は一言告げただけで、そのまま前に出た。

 ザンダルは礼を返す。

「エリシェ・アリオラ様、今回は?」

 彼女もまた、怪物である。魔族《鏡の公女エリシェ》に名前を捧げた魔道師で、《棘を持つ雛菊》と呼ばれることも多い。所属するは原蛇の塔であるが、主たる魔族の属性に従い、古鏡座の転移の魔法を自在にこなす。

「安心せよ、今日は道案内に過ぎぬ。火龍召喚に参加したいという酔狂な者を連れてきた」

 その背後にいるのは、胸当てをつけた壮年の男性。明らかに人の体型であるが、口元から牙が見える。ザンダル、フェムレンを始め魔道師たちが一斉にひざまずく。

「カスリーン殿、こたびの召喚のお手伝いに参りました。

 魔道師学院にて青龍の塔の長を努めます、《龍牙のザーナンド》と申します」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新65話)を転載しているものです。

http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/


最新65話です。


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