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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
61/74

歌の龍王【61】黒鉄の篭手と火龍の姫(9)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


「思い出すべき時が来たようだ」とフェムレンが言う。



赤の黒剣


波乱の予感がする。

新たな何かが生まれ、

世界に飛び立っていく。



「思い出すべき時が来たようだ」とフェムレンが言う。


 ザンダルの心が冷たく澄み渡った。

 呪文〈龍王の加護〉の力だけではない。

 おそらくは、この瞬間のために、ザンダルは「鍛えられて」いた。

 自らの記憶が「改竄」されていたことに対する衝撃はほぼ打ち消された。

 想定範囲内だ。

 これならば、耐えられる。


 だが……


「お前とカスリーン姫の関係は、難しい」

 フェムレンは淡々と言う。

「我は、師に過ぎませぬ」とザンダルは答える。「姫君はすでに我が掌より旅立たれ、王国の礎を築きつつあります」

「人としての関係だ」とフェムレン。「分かっておるな」

「私は、」とザンダルは言い淀んだ後、フェムレンの前に膝を折る。

「我は槍。いずれ、火龍の理に飲まれる身」

「我らは急がぬよ」とフェムレンは微笑む。おそらくは作られた笑い。

「だが、レ・ドーラを進めば、お前もカスリーンも決断を迫られよう」


 そう。いつか、歌の龍王と相まみえ……

 答えを出さねばならない。


「忘れるな、ザンダル。我らが敵は…」

「不死なる魔族」

「《策謀》には、長き時がかかる」

「次の世代、いえ、子孫すらも《策謀》のうちにありましょう」

「12とひとつの年が巡った後に後悔しても、取り返すことなどできぬが、綾織を見つめる幻視者でなき、我らはただ前に進むのみ」

「左様」とザンダルは引き取る。「我ら、青龍は槍であることに価値がある」



赤の戦車


形なき混沌が現実だ。

これに秩序という形を与えて、

未来を生み出すのが我らの使命なのだ。



「ザンダル、誰と話している?」

 女性の声が割り込んできた。

振り返れば、そこには、黒鉄の篭手をつけた火龍の姫、カスリーンがいる。背後には、忠実なる騎士コーディルと、もはや、腹心となったアナベル・ラズーリの姿がある。

 視線を走らせると、周囲にドレンダルはおろか、フェムレンの気配もない。


(すべては幻視の内への介入か)


 ザンダルは納得し、カスリーンの前に膝を折る。

「失礼。我ら魔道師にはよくない癖がありまして」

「また、何か幻視えたのか?」

 カスリーンは目を逸らさない。

「はい」とザンダルは覚悟した。「奇妙なる啓示を得ました。

 姫君は、いずれ、火龍の魂と相まみえることとなりましょう」

 いずれ、詳細は語るが、今は、注意を喚起するきっかけをお与えしよう。

「何を今さら」とカスリーンは、黒鉄の篭手を掲げる。

「このレ・ドーラに踏み込んだ時から、覚悟していたこと。

 そして、あの日、お前は言ったではないか?

 『この黒鉄の篭手が、姫様を守ります』と」


 ええ、その通りです。火龍の姫よ。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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