歌の龍王【61】黒鉄の篭手と火龍の姫(9)
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龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。
「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。
「思い出すべき時が来たようだ」とフェムレンが言う。
*
赤の黒剣
波乱の予感がする。
新たな何かが生まれ、
世界に飛び立っていく。
*
「思い出すべき時が来たようだ」とフェムレンが言う。
ザンダルの心が冷たく澄み渡った。
呪文〈龍王の加護〉の力だけではない。
おそらくは、この瞬間のために、ザンダルは「鍛えられて」いた。
自らの記憶が「改竄」されていたことに対する衝撃はほぼ打ち消された。
想定範囲内だ。
これならば、耐えられる。
だが……
「お前とカスリーン姫の関係は、難しい」
フェムレンは淡々と言う。
「我は、師に過ぎませぬ」とザンダルは答える。「姫君はすでに我が掌より旅立たれ、王国の礎を築きつつあります」
「人としての関係だ」とフェムレン。「分かっておるな」
「私は、」とザンダルは言い淀んだ後、フェムレンの前に膝を折る。
「我は槍。いずれ、火龍の理に飲まれる身」
「我らは急がぬよ」とフェムレンは微笑む。おそらくは作られた笑い。
「だが、レ・ドーラを進めば、お前もカスリーンも決断を迫られよう」
そう。いつか、歌の龍王と相まみえ……
答えを出さねばならない。
「忘れるな、ザンダル。我らが敵は…」
「不死なる魔族」
「《策謀》には、長き時がかかる」
「次の世代、いえ、子孫すらも《策謀》のうちにありましょう」
「12とひとつの年が巡った後に後悔しても、取り返すことなどできぬが、綾織を見つめる幻視者でなき、我らはただ前に進むのみ」
「左様」とザンダルは引き取る。「我ら、青龍は槍であることに価値がある」
*
赤の戦車
形なき混沌が現実だ。
これに秩序という形を与えて、
未来を生み出すのが我らの使命なのだ。
*
「ザンダル、誰と話している?」
女性の声が割り込んできた。
振り返れば、そこには、黒鉄の篭手をつけた火龍の姫、カスリーンがいる。背後には、忠実なる騎士コーディルと、もはや、腹心となったアナベル・ラズーリの姿がある。
視線を走らせると、周囲にドレンダルはおろか、フェムレンの気配もない。
(すべては幻視の内への介入か)
ザンダルは納得し、カスリーンの前に膝を折る。
「失礼。我ら魔道師にはよくない癖がありまして」
「また、何か幻視えたのか?」
カスリーンは目を逸らさない。
「はい」とザンダルは覚悟した。「奇妙なる啓示を得ました。
姫君は、いずれ、火龍の魂と相まみえることとなりましょう」
いずれ、詳細は語るが、今は、注意を喚起するきっかけをお与えしよう。
「何を今さら」とカスリーンは、黒鉄の篭手を掲げる。
「このレ・ドーラに踏み込んだ時から、覚悟していたこと。
そして、あの日、お前は言ったではないか?
『この黒鉄の篭手が、姫様を守ります』と」
ええ、その通りです。火龍の姫よ。
★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。
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