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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
60/74

【60】黒鉄の篭手と火龍の姫(8)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


「あなたは一体、どなたですか?」

 思わず、ザンダルは聞いた。

「何の芸もない質問だね、ザンダル君」



紫の古鏡


無垢ならん。

知らず。

聞かず。

疑わず。



 青龍の塔から来た魔道師フェムレン。妙にニコニコしながら、ザンダルと共同して、龍骨の野における採掘活動を指揮してきた男。龍王の猟犬を見てもその表情は変わらず、また、魔族《赤き瞳の侯爵スゴン》の解放すら可能性として示唆してきた。

「あなたは一体、どなたですか?」

 思わず、ザンダルは聞いた。

「何の芸もない質問だね、ザンダル君」

 フェムレンの口調は少しだけ上級の導師のものに変わった。

「分析は出来るだろう?」

 魔道師学院の魔道師は、理解力を問う。分析し、解析し、理解することのできぬ魔道師に価値はない。そう、謎の解けない魔道師になど用はないのだ。

 だが、そこで考えこむことが必ずしも最善手とは限らない。

「時間の節約です、フェムレン殿」と、ザンダルは言い切る。

「ドレンダルが干渉してきた以上、カスリーン閣下のため、最大効率で情報を開示願います」

「拙速もまた青龍のさが」とフェムレンはうなずく。「偽名は使っておらぬよ。

 ただ、我が青龍の塔の長、《龍鱗公バルナ》の直命を受けている」

 数年前より、青龍の塔は、激動の時代を迎えていた。

 ミスタクタイズ河流域で覚醒した《霧の龍王パーロ・ファキール》の調査に多数の人員が投入され、長を含む多数が死亡した。新たに長となったのが、《龍鱗公バルナ》で、顔の半分を龍の鱗に覆われているため、その名がある。

 ザンダルはその前に、ユパへ派遣されていたため、バルナとその側近には面識がなかった。フェムレンがそれなりに重責のある者とは思っていたが、塔の長の側近とは知らなかった。

「では、二つ、問います。

 まず、歌の龍王とは?」

「そこが、分岐点となる」とフェムレン。「まもなく、世界の運命が分岐する」

「それはすでに聞きました」

「いまだ目覚めざる龍王の器だ」

 ザンダルは確信したが、言葉は発しなかった。

「自制心は魔道師の宝だ」とフェムレン。

「カスリーンは、間違いなく、火龍の魂を持つ姫だ」

「ユパの剣の公爵家の血筋でしょうか?」

「それは確認できていない。だが、お前が派遣される前から、その兆候が察知されていた」

「火龍の姫を育成するために、私が選ばれたのですね」

 ザンダルの言葉はもはや質問ではなく、確認だ。

「黒鉄の篭手にも何か仕掛けがありましょうか?」

「あれは、心の鍵に過ぎぬ」

「外せば?」

「何故、カスリーンは王となることにあれほどこだわるかわかるか?」

 ザンダルはフェムレンの言葉に、カスリーンに見た幻視を重ねる。泣いていた少女。幼い頃のカスリーン。血の海に倒れ伏した侍女。

「あの篭手は、彼女の内なる火龍のやみがたい衝動を体現するものだ。

 カスリーンは内なる力を征服という野心に還元している」

「あれをつけたのは……」

「私だ」とフェムレン。「どうやら、あの時の暗示はお前をきちんと制御してきたようだな」


 ザンダルは、心のどこかで鍵が外れるのを感じた。

 さまざまな風景と言葉が一気に蘇ってきた。


「火龍の姫を守り、育てよ」

 遥か昔、青龍の長であった現在の魔道師学院の堂主アルゴスからの命令。

「いずれ、彼女は大いなる槍に育つ。

 火龍の器として、我らと同盟する《世界の槍》だ」


 それは、壮大な実験の一幕。


「そして、お前も」


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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