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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
54/74

【54】黒鉄の篭手と火龍の姫(2)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


「なぜ? とはお聞きにならないのですね?」

 アナベル・ラズーリは、微笑みながら言った。




黒の原蛇


融合せよ。

汝の生きざまを我に分け与えよ。




 龍骨の野、レ・ドーラを開拓し、東西に走る水路を持ってモーファットとユパを結ぼうとする野心ある姫君、カスリーンと、青龍の魔道師ザンダルは、次々と苦難に出会いながらも、一歩ずつその計画を邁進してきた。

 そして、聖なる山ルケから下り、ユパの東方辺境を形作るルケリア河から東へ向かう水路の掘削に取り掛かった。この水路は、カスリーンの版図における物流の中核となるべきものであり、そこには大型の川船を浮かべる予定であった。

 そんな流れを読みきったかのように、モーファット河の河口にある港町ラズーリの娘にして、海神ゲグの巫女、アナベル・ラズーリが船大工を連れてラグレッタ砦へと姿を表した。


「なぜ? とはお聞きにならないのですね?」

 アナベル・ラズーリは、微笑みながら言った。

「君の行動はすべて、海神ゲグの思し召しであろう?」

 ザンダルは尋ねたが、彼女は微笑むばかりで答えなかった。

 それを見て、ザンダルはカスリーンに振り返った。

「カスリーン殿下、この者は…」

「ザンダル、せっかくの客に失礼であろう」

 カスリーンは、黒鉄の姫と呼ばれる由来になった篭手に包まれた手を軽く振る。

「「異国の才は、可能性を与える」、と言ったのはお前ではないか?」

 幼いカスリーン姫に、王となる道のひとつとして、そう助言したのはザンダル自身だった。

 姉と対抗し、同じ国の貴族とも対立するカスリーンにとって、国内で得られる人材は限られる。積極的に国外の人材も、取り込まねばならない。それはザンダルが教えたこと。

「樽が不足しておる」

 カスリーンは唐突に言った。聞いたアナベルはにっこりとほほ笑み、船大工の長である老人を振り返る。老人が深くうなずき返すのを見てから、アナベルは答える。

「一月にて、200個」

「それでよい。頼むぞ」

 アナベルと船大工たちはそのまま退出した。



「私が浅慮でありました」

 ザンダルは深く頭を垂れた。

「本来のお前なら、説明の必要もあるまいが、あえて、問おう」

と、カスリーン。

「木材を湾曲させて作る樽は」とザンダルが解く。「密閉の度合いも高く、小麦などの穀物、ワインや油などの液体に至るまで、諸産物の輸送に欠かせぬ容器でございますが、その技術の根幹は、船大工が船底の曲線を描き出す技術と源を同じくするものでございます。

 樽を見れば、船大工の腕が知れましょう。

 期日を守るかどうか、あの者の誠実さも分かりましょう。

 200個の樽をどうやって運び込むかで、あの者の器量も知れます。

 加えて、現状、我らの企てが進めば進むだけ、輸送用の樽が確かに必要なのも事実。

 カスリーン様のご判断は、誠に賢明なものでありました」

「まだまだだな、ザンダル」とカスリーン。「私はあの女が気に入った」

「しかし、あれは?」

「魔族の信徒であろう。南海において、お前を魔物の海へと導いた女。

 だがな、あれは、良き商人だ。

 何より、一呼吸で決断したのがよい。

私の言い分を瞬時に理解し、船大工の長の腕も鑑みて、すぐさま200と答えた」

カスリーンはやはり黒鉄の姫であった。武家に生まれ、戦場に生きる。素早く相手の意図を読み取って、瞬時に判断を下す。その有能さを愛する指揮官だ。



 黄の戦車


 我が運命はまもなく終わり、

 時代は変わっていくのだろう。



 一月の後、アナベルは250個の樽を積み込んだ馬車で到着した。それぞれの樽には、南方の酒やヤシ油、松脂、干した果物、穀物、砂鉄などを詰め込んであった。カスリーンは樽の出来を確認した後、すべての樽を高価で買い上げ、さらに、運河を走る中型の軍船三隻を発注した。

「帆走もでき、二段櫂で樽50を運べること」

 聖山ルケから流れ落ちるルケリア河の流れは、モーファット河よりやや強い。遡るには帆走ではなく、櫂が必要だ。運河に入った後、土鬼との戦闘にも使うとなれば、二段櫂の速度が必要だろう。

「大型の弩を載せる。それについては城の工兵頭のキリクより説明する」

 アナベルはそのすべてを受け入れた。


 アナベルとカスリーンは、急速に親密となった。

 カスリーンは、アナベルの機転と知識を高く評価し、ラグレッタ城砦の執務室に呼びつけ、長時間に渡って話し込んだ。ザンダルは警戒し、可能な限り、同席したが、この二人の若い貴婦人がどんどん親しくなっていき、午後のお茶を楽しみながら、笑い声を上げるようになったので、その役目は騎士コーディスに任せるようになった。

「最近、見張りはやめたのか?」とカスリーンがザンダルに聞いた。「アナベルが寂しがっておるぞ」

「魔道師というものは、どうもお茶の席には似合わぬもので……」

「苦手か?」

「私は、特に、人よりも火龍に興味があるもので……」

 ザンダルは言葉を濁したが、そこに、カスリーンが斬り込んだ。

「ふむ、わらわも苦手か?」

 その視線は、火龍のように鋭い。

 ザンダルの背筋にぞくぞくしたものが走った。

 この姫は、決して、同じ年頃の友達ができて、はしゃいでいる小娘ではなかった。彼女は今も黒鉄の姫にして、火龍の魂を持つ姫将軍である。

「私にとりまして、殿下は、火龍と同じく興味深い存在です」

 ザンダルはそういうしかなかった。

「では、お前の忠誠を示せ」

 カスリーンは、黒鉄の篭手を差し出した。

 ザンダルは黙って彼女の前にひざまずき、その篭手に口づけした。

「それでよい。お前は私の物だ」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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