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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
52/74

【52】龍王の猟犬(4)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


 白く半透明の火龍の姿が吹き飛ばされるように消える。


(あと三度)


 龍を殺すために生まれた魔族がそう囁いた。


「ああ、分かっている。これは始まりに過ぎない」




緑の原蛇


我をあがめよ。

願望を形にするのだ。

おさえてはならない。



 龍王の猟犬と呼ばれた火龍の死霊。

それは、赤き瞳の放つ光の前にその朧気な姿を揺るがせた。

まるで風に舞い散る霧のようだった。

白く半透明の火龍の姿が吹き飛ばされるように消える。


(あと三度)


 龍を殺すために生まれた魔族がそう囁いた。


「ああ、分かっている。これは始まりに過ぎない」

 ザンダルは答える。

 レ・ドーラの入り口でこれだ。

 モーファットに至るまでに、後三度どころか何十回もかの者の名を呼ぶ機会があるだろう。いずれ、スゴンをこの地に解放する時が来るに違いない。



「まずは最初の骨塚をしっかりと除去し、搬出可能な状態とします」

 城砦に戻り、ザンダルとフェムレンは黒鉄の姫カスリーンに報告した。

「龍王の猟犬という死霊はどうなった?」

「赤き瞳の力で追い払いました」とザンダル。

「倒した訳ではないのか?」とカスリーン。

「今回の件で、龍王の猟犬が消えた訳ではありません。残念ながら、あれは死霊であります。レ・ドーラの地に満ちる翼人座の魔力に囚われた怨念でありますゆえ、それが解決せぬ限り、どうになりませぬ」

「危険は今後も続くと?」

「それゆえに、骨塚を掘るのです。恨みの核となっているのは、いまだ、あの地に残る龍の骸であります。それを取り除き、拡散させることで怨念が浄化されていくのです」

「どれほどかかる?」

「作業が始まっておりませぬので、しかとは見積もれませぬが、最低でも2、3年は」

 ザンダルの報告を聞き、カスリーンはため息をひとつついたが、怒りは見せなかった。

「5年でここまで来た。あと3年かかるのは致し方ない。

 モーファットまでの回廊を開くのだ。任す」

 カスリーンは忍耐強い。待つことを理解している。

「だが」とカスリーンは言う。「兵たちの士気を維持し、作業を継続するにはどうする?」

「姫の兵たちには、いずれ来たる大戦役に備えていただかねばなりません」

「なるほど」

 カスリーンは目を輝かせた。

「レ・ドーラに達し、魔道師学院の助けを得て龍骨の発掘を始められた姫は、ユパ王国の中でさらなる一歩を踏み出されました。

 そのため、今、姫は七つの敵と戦う定めにあります。

 第一は土鬼。今は、近隣の氏族だけですが、いずれ、覇王たる棍棒王ラ・ダルカが乗り出してくるでしょう。ラ・ダルカは数十の氏族を支配し、数千の土鬼を戦場にかき集めることができます。現状、姉上の御夫君、ケドリック将軍はラ・ダルカの猛攻によく耐えております。あの軍勢が何らかの理由で向きを変え、南下してくる可能性があります」

 土鬼の王の中でも、もっとも偉大とされる棍棒王ラ・ダルカは中原の大平原を支配する怪物だ。組織化された人の子の王国が土鬼を完全に排除できないのは、ラ・ダルカの王国が存在するからに他ならない。

「これについては、城砦の守りを固める他ありませぬ。姫とコーディス殿には城砦防衛の強化をお願いいたします。工兵頭のキリク殿には、学院より送られた大型弩弓砲の図面を渡してあります」

「次は、姉上か?」

「ご明察の通り。レ・ドーラ回廊計画が具現化したことで、姫は魔道師学院、モーファット伯爵領、デンジャハ王国と結びつきました。支配地の開拓はいまだなりませぬが、城砦の数はすでに三つ。姉上は危機感を抱いておられましょう」

 ユパの軍事面を支配する剣の公爵には二人の息子と三人の娘がいる。黒鉄の姫と呼ばれるカスリーンは今年18で、次女である。王国軍の次期司令官と目される兄のデルフィス将軍が王都の防衛を任されているのに対して、カスリーンの姉マデリーンはユパの東北部国境地帯に陣を張り、マイオスとともに、聖山ルケ周辺を護衛している。ルケ山への参道を掌握し、街道の利権を掌握しているとはいえ、土鬼との激戦は決して楽なものではない。火龍の死地へ踏み込むとはいえ、今後、龍骨を巡る利益が上がり始め、回廊が開かれた際にはカスリーンの得る権益は莫大なものになるだろう。マデリーンもまた野心ある姫である。妹の権益を少しでも掠め取ろうとするかもしれない。

「ラ・ダルカを倒さぬ限り、姉上とて派手には動けぬ。足の引っ張り合いをする時期でないことをわからぬ姉上ではない。少し機嫌を取っておこう」

「お願いいたします。

 さて、第三の敵は、火龍の猟犬でございます。

これはいずれ、我ら魔道師学院が対応いたします。

 第四の敵は、魔族にございます。我らがここにて龍骨の野を渡るのを利用し、封印を脱して復活しようとする魔族どもの《策謀》がございます。おそらく、《赤き瞳の侯爵スゴン》なる魔族が、呪われしヴェルニクの封印より帰還するべく暗躍した結果が、この赤き瞳の杖です。いずれ、この地にも魔族の手先どもが現れましょう」

「それらは、お前に任す」

 カスリーンは言い切る。

 彼女は自分にできること、できないことを見極める。

「第五の敵は、宝冠の公爵にございます」

 それはユパ王国の産業面を支えるもうひとつの公爵家だ。財務経営に秀で、王都の職人組合を傘下に置き、ユパの内政を担当する穏健派とされるが、剣の公爵家との間には、血で血を洗う暗闘が続いている。

「龍骨はすでに多くの資金を呼び寄せております。

 すでに南方デンジャハ王国から龍骨の買い取りを意図した特使が到着しております。まだ掘ってもいない骨塚を買うつもりです。

 我々が資金と交易路を手に入れることに、彼らは脅威を感じるでしょう」

「コーディス!」とカスリーンは呼ぶ。

「は」と前に出た、カスリーンの騎士。「宝冠の公爵家はすでに抑えた。ラグレッタ砦城下の行政官は宝冠の公爵の甥を当て、薬剤加工職人の一座を統括させる話は、剣の公爵殿下もご承知済みです」

「見事でございます」とザンダルは頭を垂れる。

「第六の敵はマイオス王国にございます。かの国はラ・ダルカに抗する限り味方でございますが、土鬼が駆逐されれば、国境を接する競争相手」

「それは姉上の領分だ」

「兵においてはそうでありましょう。だが、世の中には暗殺者というものもおります」

「ふふふ」とカスリーンは笑う。「それこそ我らが人生よ」

 もはや、この姫は暗殺者に狙われることすら日常として受け入れていた。

 誠に、火龍のごとき姫である。

「最後の敵は己れなどという世迷言は言うまいな、ザンダル」

 カスリーンは試すように言うと、ザンダルもほほえみで答える。

「そのような精神論は、我ら魔道師とは無用のものにございます。

 第七の敵は、『歌の龍王』。

 我らが学院の予言せし、時代を変える者。

 かの『刺のある雛菊』が申し上げたる通り、そして、我もこの旅にて魔族の囁きの中に聞きましたその名、いずれ、レ・ドーラの奥にて相まみえるものとお覚悟ください」

「なぜ、そう断言できる?」

「なぜならば、火龍の猟犬を撃退せし戦いの中。

 我ら二人が幻視いたしましたゆえ」



紫の牧人


我はここで待つ。

汝の時が至るのを。



 ザンダルとフェムレンは幻視た。

 龍王の猟犬が消し飛ばされる直前、その者が歌うのを。

 それに答えるように、魔族の赤き瞳が舞うのを。


(我らは歌う。歌の龍王の再誕を)



龍王の猟犬の章 おしまい。


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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