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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
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【5】待ち伏せ

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


緑の野槌


耳元にささやく者あり。

これもまた夢なりや?



 伯爵の城へ召喚され、顔を出す途上、城壁の間の通路を抜けながら、ザンダルは街の空気の中にかすかに漂う死の気配を感じた。まるで白い羽根が舞うように、死の気配が人々の上に積もっていく。あるいは、街路の石畳の下から水がしみ出すように、人々の足元を死の気配の潮が洗う。

 かすかな波音は湖から聞こえてくるのではない。

 どこかで現実が綻び、世界の深淵とつながっているのだ。

 おそらく……

 心が身体を離れ、気配の根源へ飛んで行きそうになるのをザンダルは必死に抑えた。部屋を出る時、抱えてきた槍を杖代わりに頼る。

 ああ、おそらく伯爵の夢占い師殿は、十分な魔法的防御策を講じずに、幻視の目を死の気配の根源へ向けてしまい、死の力を直接、受けてしまったのだ。

 龍に対する時は、あれほどに注意深いのに。

 いや、おそらくは、龍に比べて、魔族を侮ってしまったのだろう。

 愚かというのは、尊敬に欠ける見方だ。

 夢占い師殿にはきっと、敵の推測などなかったのだろう。予断に縛られず、未来を感じることこそが彼らの習いであったから。

 だが、ザンダルは違う。

 火龍を眺め、狂気の向こう側をみようとする。

 そう学んだ。

 また、魔道師学院は魔族の対策についても、考えている。

 今、それがザンダルの前に立ったとしても……


 気づくと、目の前に女がいた。

 占い師のような法衣、そして、その両眼は炎のように赤く輝いていた。


 ザンダルは一瞬の隙に後悔した。

 真っ赤な視線がザンダルの両眼を貫いた。

 死の羽音が聞こえた。

「死ね」

 声は形ある武器のように、ザンダルの頭蓋骨を揺さぶった。

 だが、ザンダルの魂は、龍の鱗で守られていた。

「火龍ほどではない」

 そのまま、背負ってきた槍を振り回す。人の背ほどの槍がぶんと唸って上方から女の頭に振り下ろされる。城壁に近い道は幅が狭く、避ける場所が少ない。女はよけ切れず、肩を切り裂かれ、後方に転倒する。

「開門!」

 女は、城壁の壁を叩く。

 すると、一気に波音が響く。

「深淵を開くか。やはり魔性の身」

と、ザンダルは言った。

「ああ、お前の名前を聞いたことがあるぞ。

 赤き瞳の巫女ドレンダル」

 それは、翼人座の魔賊「赤き瞳の侯爵スゴン」に魂を売った女魔道師の名前。禁断の知識に溺れ、かの呪われしヴェルニクで暗黒の輩となった女。

「知っているなら、話は早い。

 この街は滅びるのだ」

 ドレンダルは、壁に発生させた深淵の門へと身を躍らせる。そして、代わり、そこから見えない波に乗って人よりも大きな魚が飛び出してくる。

 双魚ブトゥア。空中を泳ぐ異界の妖魚。

「小細工を」

と、ザンダルは槍を構えなおす。空中を舞う巨大な肉食の魚は、魔族ではないものの、槍一本で戦うには十分、剣呑な敵だ。直撃を食らえば、命を落としかねない。

 そして、波音は消えていない。

 深淵の門は開かれると、少しずつ拡大し、そこから異界の波が流れ込んでくる。その波によって周囲は異界となり、このような妖魔が出没するようになる。そのうち、崩壊して閉じることにはなるが、自然崩壊した場合、周囲の物や人を飲み込んでしまう。

 放置してはおけない。

 魔道師には、その対策としての呪文も用意されているが、その前に、この妖魔をなんとかせねばならない。

「短期決戦ですね」

 ザンダルは冷静に判断すると、石畳を蹴って、双魚に激しく槍を突き出した。



 しばらく後、ザンダルは伯爵の執務室にいた。

 疲弊したザンダルは、布に包んだ肉の塊を伯爵の侍従に手渡した。

「いずれ、残りは街の者が運んでくると思いますが、まずは新鮮なものを。

 双魚の肉です」

 侍従の顔色が変わる。双魚は凶暴な異界の魚だが、同時に、不老長寿の妙薬としても知られる。精のつく食べ物だ。

「いったい、それをどこで?」

と、伯爵が問いかけてくるので、ザンダルは身を整えながら答えた。

「城壁の通りで、魔族の使徒に襲われました。

 厄介な存在がこの街を狙っております」

「魔族の使徒?」

「呪われしヴェルニクを支配する魔族、【赤き瞳の侯爵スゴン】に魂を売った魔女、赤き瞳の巫女、ドレンダルです」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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