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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
45/74

【45】龍骨の野(7)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


「怪物」と、呼ばれる人々がいる。


白の古鏡


我は鏡。

汝の過去を愛してあげよう。



「怪物」と、呼ばれる人々がいる。

 外見の問題ではない。一般人の感覚では把握できないような強大な何かを内に秘めた、人ならぬ感性の持ち主である。カスリーンも、ユパ王国において、怪物めいた人物を何人も見てきた。現国王もそうだ。老いてなお、剣と宝冠の二公爵家を操り、国家を完全に支配する。あるいは、噂に聞く北原ユラスの黒男爵など怪物というべき存在だ。

 長年、師と仰いできた青龍座の魔道師ザンダルでさえ、人ならぬ狂気を垣間見せる。

 そして、この少女だ。

 魔道師学院の使者と名乗る少女は、外見上、12,3才の貴族の娘に見えるが、カスリーンの直感が「違う」と告げていた。


 これこそ「怪物」だ。

 おそらく、魔道師学院の闇に属する何か。


 それでも、執務室の椅子で泰然として座ったままで居られたのは、おそらくカスリーン自身もまた「怪物」だからだ。

 若くして、玉座への野心を抱き、鉄の姫と呼ばれる女将軍として生きてきた。


(これは勝負だな)


 状況を察したザンダルが、青ざめたまま、前を向く。その手には赤き瞳の宝珠をつけた杖が握られていた。たとえ、あれが「最悪の存在」であったとしても、この宝珠ならば、殺せる可能性がある。

 コーディスも、異常を察し、カスリーンの斜め前に立つ。何かあれば、割って入るつもりだ。腰の剣に軽く触れ、確認する。


「ようこそ、学院の使者殿」とカスリーンは答える。

「初めまして、カスリーン殿下」とエリシェ・アリオラが優雅に礼を返す。「魔道師学院を代表し、カスリーン殿下への親書をお持ちいたしました。そして」と彼女は視線をザンダルに向ける。「ザンダル殿にも、学院からの命令をあずかっている」

「まずは親書をお受取りいたしましょう」とザンダルが言う。「私への命令は、その後に」

「コーディス」とカスリーンが命じる。

 騎士が親書を受け取り、カスリーンに渡す。

「学院は、ザンダル殿から報告のあった龍骨の一件を歓迎いたします。

 十分な資金と技術の提供によって、学院はお答えできるでしょう」

 エリシェが親書の趣旨を述べると、カスリーンはうなずき返す。

「よきお答えを素早くいただき、感謝します。

双方の利益となることを期待します」

「そして」とエリシェはザンダルに向かう。

「魔道師学院堂主アルゴスの名を持って、告げる」

 堂主の名に接し、ザンダルは杖を置き、跪いた。

「堂主アルゴスは、青龍の塔に仕えし魔道師ザンダルに三つの命を下す。

 ひとつ、龍骨の野に関する調査報告をまとめ、早急に学院へ帰還せよ。

 ひとつ、赤き瞳の杖をエリシェ・アリオラに渡し、学院へ移送せよ。

 ひとつ、「歌の龍王」に関する知見があれば、大至急、報告せよ」

 エリシェの言葉に対して、ザンダルは呆然となった。

「お待ちください」とザンダル。「私は現在、この地を離れることはできませぬ」

「今、ザンダルを手放す訳にはゆかぬ」とカスリーンも答える。

「火急の案件です」とエリシェ。「では、こちらを見なさい」


 ザンダルは見たくなかった。だが、それは許されなかった。

 エリシェ・アリオラの周囲に、多彩の渦が流れ、輝きを放つ。

 彼女の瞳が輝き、ザンダルは夢を見た。



「歌の龍王」と誰かが言った。



「今宵は、我が師、《召喚者》スリムイル・スリムレイの命に従い、《約定の公女》フリーダ様のお言葉をお持ちいたしました」

 エリシェは悪意のこもった微笑みを浮かべる。

「まもなく、歌の龍王が目覚め、世界は変転の時を迎えるだろう」



「なあ、魔道師殿」

 地上へ続く扉へ向かって道を戻りながら、ナルサスはザンダルに囁いた。

「『歌の龍王』という言葉を聞いたことがあるか?」

「残念ながら、ないな」とザンダル。

「龍王の件は、確かに我が専門なれど、世に十二と一騎ありとされる龍王も、そのすべてが現在も知られている訳ではない。その中に、歌の龍王という二つ名を持つ者はいない。

 そういう龍と出会ったことがあるのか?」

「いや」と、ナルサスは剣の柄をなでる。「この剣は、殺した者の命を吸う。その時、その者の想いが伝わってくることがある。あの魔女もそうだった。なぜか、最後に奴の声が聞こえた。『歌の龍王』と」




 気づくと、目の前に女がいた。

 占い師のような法衣、そして、その両眼は炎のように赤く輝いていた。


 ザンダルは一瞬の隙に後悔した。

 真っ赤な視線がザンダルの両眼を貫いた。

 死の羽音が聞こえた。

「死ね」

 声は形ある武器のように、ザンダルの頭蓋骨を揺さぶった。

 だが、ザンダルの魂は、龍の鱗で守られていた。

「火龍ほどではない」



「なるほど」とエリシェ・アリオラは言った。

「了解いたしました。一度、学院に戻り、堂主猊下と検討いたします。

 龍骨の件はそのまま進めさせていただければ幸いです」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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