【44】龍骨の野(6)
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龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。
「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。
「魔道師とは、身も蓋もないことを言う」
*
緑の原蛇
我をあがめよ。
願望を形にするのだ。
抑えてはならない。
*
龍骨の野レ・ドーラを制圧し、湖の都モーファットまでの回廊を手に入れようとする鉄の公女カスリーンと魔道師ザンダルは、レ・ドーラに残る龍の狂気に対する対策を練る。
「ええ、ですから、狂う理由を消しましょう」とザンダル。
「出来るのか?」とカスリーン。
ザンダルはまるで、当たり前のように答える。
「龍骨をすべて回収すればいいのです」
「魔道師とは、身も蓋もないことを言う」
とカスリーンは呆れた。
「レ・ドーラの征服というから、ずいぶん派手な征旅となるかと思えば、骨拾いか」
「しかし、これは龍骨の野、レ・ドーラを制圧するために、欠かせない仕事です」
と、ザンダルは真面目な顔をしていう。
「さらに重要なことは、金になるということです」
「金?」
「中原ではあまり知られておりませんが、南方に住むテルテヌ人は、長寿の薬として、龍の骨を珍重いたします。さらに、魔道師学院でも、貴重な実験素材ですし、いくつかの教団が薬剤に珍重すると伝え聞きます。
すでに財務官の方と相談し、南方グナイクの海王にも話をつなぎました。鉱山を一つ掘り当てたと思っていただければありがたい」
「だが、我らは兵団ぞ。骨拾いだけでは士気が上がらぬ」
カスリーンは勘気が強い。やはり戦場向きの姫である。
「ご安心を。あの土鬼どもだけで、十分に戦は続きます」とザンダル。「戦いの苦手な者は骨拾いに、戦いに逸る者は土鬼の討伐に向けましょう。龍骨の管理は密に致しますが、利益の一部を兵に還元すれば、士気も上がり、兵も喜びます。武功の恩賞を多めとし、優れた武将は今後、モーファットまでに築く城にて、重く扱うと公言すれば、獅子奮迅の働きをしましょう」
そこで、ザンダルはざわりとした感触を感じた。
「素早いな」
その言葉は半ば緊張と、半ば喜びを持っていた。
「カスリーン様、まもなく学院の使者が参りましょう。
これよりは政治の時、カスリーン様の戦場にございます」
「魔道師どもが、金と権力の匂いを嗅ぎつけたか?」
*
その少女がいつどこから沸いて出たのかは、判然とはしなかった。
いつの間にか、城の大広間にいたという者もいれば、虚空から沸いて出たとも、姿見から踏み出してきたともいう。
愛らしいドレスに身を包んだ一見無垢な少女のように見えて、どこか禍々しい雰囲気を漂わせている。魔道師学院の魔道師の中でも、古鏡座に属することを示す白銀の紋章が胸に光っている。
「良き土地だ」
*
「これは何者だ?」と、ザンダルは青ざめて呟いた。幻視に浮かぶ少女の印象は、花束のような可憐さと、毒草のごとき禍々しさを兼ね備えていた。
通常、国家間の密使として働く古鏡座の転移者が持つ軽やかさがそこにはない。いや、確かに一陣の風のような軽快さはあるが、これは瘴気を含んだ魔の風のようだ。まるで……
「赤い瞳の巫女ドレンダル」
モーファットで相対した魔族の走狗。魔族の精を受け、人ならぬ怪物と化した魔女。あの女を彷彿とされる闇が、少女の形をして歩いている。
だが、その姿は龍骨の野レ・ドーラにふさわしいかもしれない。
「お気をつけください」
と、ザンダルはキャスリーンに向かって呟く。
「学院は、とんでもない怪物を送り込んできたようです」
「私は、魔道師学院より派遣されました使者にございます。
名をエリシェ・アリオラと申します」
執務室の扉から現れた少女は、そう言った。
エリシェ・アリオラは、棘のある雛菊。
★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。
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