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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
37/74

【37】野望の姫(6)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


黄の翼人


たとえ永遠に見えても

すべてのものに必ず終わりが存在する。



「カスリーンの道を開く時が来たのだ」

 黒鉄の姫は宣言する。

 鉄の篭手がユパからモーファットへと続く帯状の地域をざっと薙ぐ。

 レ・ドーラの荒野だ。

 それは火龍の墓場。

 遥か古代に、火龍同士が相争ったとされる荒野。

 そこには、多くの火龍の屍が積み重なり、火龍の怨嗟の想いが留まっている。

 中原南部に位置するユパでさらなる領土を得るためには、背後に山々のあるレ・ドーラの荒野を制圧し、モーファットへの回廊地域を形成する。モーファットまで版図が広がれば、ユパの経済圏は格段に広がる。回廊は新たな街道となってユパはさらなる利権を得る。

「黄金の道です」

 かつて、ザンダルはそう説明した。

「では、我が名をつけよう。これはカスリーンの道よ」

 13歳の姫君はそう答えた。


(5年間、あなたは変わらなかった)


 ザンダルは口に出さないまま、そう呟いた。

 これはしかたのないことだ。

 おそらく、これもまた運命の綾織の中で、誰かが求めたことだ。


(お前か?)


 ザンダルは、はっとしてスゴンの赤き瞳に目をやる。

 だが、まがまがしい宝玉は何も伝えてこない。

 逆に、その沈黙こそ明白な答えのようにも思えた。


「分かりました」と、ザンダルは深々と頭を下げた。

「カスリーン殿下の仰せの通りに」

「よし」とカスリーンは微笑む。

「では、早速、コーディスとともに戦略を立てよ」

「まずは、現場を見ましょう」とザンダルは立ち上がる。

 カスリーンが目配せする前に、コーディスが立ち上がっていた。

 二人の男は無言で東屋を出て行った。



赤の野槌


この場所こそ我が故郷。

これだけは決して忘れない。



三日の間、ザンダルはコーディスとともに、カスリーンの陣営と東方国境を見て回った。コーディスは生真面目で論理的な考え方をする男だった。剣の公爵の配下として、現場で軍を差配する腕のいい指揮官なのだろう。人の使い方がうまかった。

まず、ザンダルが求めるだろう、軍役回りの数字に通暁した財務官に使者を送り、その後、ザンダルと二人で乗り付けた。

「姫君の軍師となられた魔道師殿である。麾下の軍団の全容をお知らせせよ」

 たちまち書類が積まれた。

 ザンダルは一部屋を借りて、一晩、それを読みふけった。時折、財務官やコーディスを呼び寄せ、細かいあたりを聞き取ったり、地図と見比べたりして過ごした。

 翌朝、書類の手際を褒めた後、一言付け加えた。

「いずれ、大弩を備えた出城を七つ作ります。

 経費の試算をお願いします」

 財務官は、迷いもなくうなずき、背後に控えた従者から一冊の書類を受け取り、ザンダルに差し出した。

「姫の差配か」

 ザンダルの問いに財務官はうなずく。

 数字は完璧だった。

「カスリーン殿下への忠誠、確かに見届けました」


 次に、ザンダルはコーディスとともに砦を見て回った。

 途中で浅黒い肌の少年が馬で追いついてきた。服装からユパの貴公子と知れるが、その顔つきはサイン人ではない。そして、馬を操る様子が尋常でなく、うまい。手綱などほとんど振らぬまま、足の動きだけで乗馬を手足のように操っている。

「これはストラガナ侯」

 コーディスが頭を垂れる。

「ははは」とストラガナは笑い、じっとザンダルを見た。「おお、覚えているぞ。こいつだ。5年前に、姉様を教えていた魔道師だ」

 アル・ストラガナ侯は、西方草原ガラン族との盟約により、第三夫人としてユパ王に嫁いできた族長の娘メレの息子である。ガラン族の生まれのため、幼少時よりガラン族騎兵に混じり、牧場を走りまわっていた彼は、剣の公爵家とも仲がよく、カスリーンやアイリーンによくなついていた。5年前、ザンダルがカスリーンの家庭教師をしていると、時折、風のように現れ、庭でアイリーンと遊んでいたものだった。

「ご無沙汰しております。アル・ストラガナ侯に置かれましては、5年間で見違えるようなご成長、お喜び申し上げます」

 ザンダルも頭を垂れる。

「姉様から聞いたぞ。砦を見に行くのだろう? 私も一緒に行こう」

「ストラガナ殿下、騎兵隊のお仕事はよろしいのですか?」

とコーディスが釘を刺す。

「これも仕事だ。

何しろ、姉様のご命令だ。

 『ザンダルに我が軍の威容を余すところなく見せるのだ』と」

 最後はカスリーンの口調を的確に真似ていた。

 ザンダルは苦笑を押さえた。

 そこへ、背後から多数の馬蹄の音が響いてきた。

「また、部隊を置いてきたのか?」

と、コーディスが呆れたように言うと、少年は肩をすくめた。

「ガンツは足が遅い。

 ガラン族は風のように走る」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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