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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
25/74

【25】海王

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


黄の青龍


裏切り者よ。紛い物よ。

汝は悪しきもの。

我は復讐を忘れず。



 グナイク。

 それは海王の都。海を支配する者たちの王城。

 大海原を行く海王船の巨大な甲板から遥か彼方に見えたのは、沖合の小島に守られた巨大な湾岸都市であった。灯台のある小島の上には、巨大な弩弓砲と投石機が設置され、敵艦隊や妖魔の類から街を守っている。三本のマストに十枚近い帆を張った大型帆船である海王船は、すべるように小島を迂回し、グナイクの港を形成する湾へと進んでいく。

 湾の中には、多数の帆船が停泊していた。

 多くが三本マストの外洋帆船で周囲には輸送用の大型手漕ぎボートが波止場との間を行き来している。

 中でも、巨大な船が三隻あった。

 ザンダルが乗る海王ルーニクの「大渦号」も巨大であったが、それらはさらに巨大な船である。ルーニクは、ザンダルにそれぞれを指差し、説明する。

まず、指差した一隻は青い旗に、オメラス大公領の紋章を掲げている。

「風の海の海王カーディフの《微風》号だ。

 カーディフ殿はオメラス大公の甥子に当たられる」

 さらに壮麗な黄金の飾りに輝く船には、太陽の紋章がある。

「あれが、東方、光の海を支配する海王ザラシュ・ネパード殿の《黄金の太陽》号だ」

 そして、もっとも不気味な漆黒のマストを掲げた船からはまがまがしい気配が漂う。

「《黒骨》号だ。闇の海の海王ウィンネッケ殿まで来ておられる!」


(死は安寧)


 ザンダルの脳裏に不可解な幻視がよぎる。

 闇の海からやってきた船はあまりにもまがまがしい。


「ザンダル殿、あなたは幸運だ。

 一度に四隻もの海王船を見られることは、滅多にない。

 いや、それだけ今回の件は非常事態ということかもしれないな」


「帆をたため!」

 海王ルーニクの指揮のもと、船員たちはマストを登り、あるいはロープを引き、帆をたたむ作業に勤しむ。荒くれ者ばかりの船員たちが一糸乱れず、指揮に従う。

「碇、用意!」

 巨大な鉄の碇が海面に投じられる。

 ざっぱーーん。

 深い湾の入り口で海王船は止まり、船員たちは荷物をボートに運び、上陸の準備に入る。

 ルーニクは、傍らで入港を見守っていたザンダルを振り返って言った。

「さて、魔道師どの。我ら海王の都グナイクへようこそ」


 ボートで上陸した波止場は、活気に満ちていた。多数の商船から荷揚げされる多くの富がひっきりなしに波止場に届く。それをまた街の市場や倉庫へと運ぶ馬車が波止場を行き来する。

 ザンダルはルーニクとともに上陸し、そのまま王城へ向かう馬車に飛び乗った。


 グナイクの王城の広間は、街を見下ろすテラスの続きにあった。

 ザンダルとルーニクが到着した時、そこにはすでに二人の先客が会議用の円卓に座っていた。一人は壮年の貴族で、オメラス大公家の紋章を身につけていることから、風の海の海王カーディフと知れた。もう一人は質素な船乗りの服を着た老人で顔は白い無精ひげで覆われていた。

「おお、ルーニク、我が息子よ!」

 老人の方がさっそく声をかけてきた。

「グナイクの長老、アイオロス殿!

 ああ、彼こそが果ての海の海王……ということになっている」

 ルーニクはふざけた調子で合図して言う。

「こやつ、まだ信じておらぬな?

 わしこそが唯一、果ての海に達した男。

 だから、わしには果ての海の海王を名乗る資格がある」

 そう言って、二人を円卓に導く。

「好きなように座れ。どうせ、全員はおらぬ。

 ああ、こちらが風の海のカーディフ」

 高貴な出自の海王は華麗なしぐさでお辞儀をして見せる。

「彼が《海の騎士》の覚醒を見届けた魔道師ですな?」

 ザンダルはうなずき返す。

 懐から二つの宝玉を治めた箱を取り出す。

「まあ、ちょっと待て」とアイオロス老人が手を止めて奥を振り返る。「珍しい奴らが来ておるからな」

 手を叩くと、奥の間の扉が開き、壮麗な鎧をまとった壮年の騎士が出てきた。その手には、青い鞘に収まった巨大な剣が握られている。

(魔剣?)

 ザンダルの目にはそれが青く輝いているように見えた。

「海の聖剣ラツ・ヴァイネルダフではありませんか!」

 ルーニクが驚きの声を上げる。

「それは確か失われ、ザラシュ殿も探索を諦められたと」

「不可思議な縁により、北原より持ち帰られた」と、光の海王ザラシュ・ネパードは微笑み返した。「かのラルハース動乱の折、かの城の地下、大海魔の巣にて発見されたのだ」

 その話はザンダルも聞いたことがあった。

 北原の中心にある大国ラルハースの継承者を巡る戦乱、いわゆる「ラルハース継承戦争」で、何人かの勇者たちがラルハースの地下にある巨大な水没した洞窟へと入り込んだ。そこで大海魔ダーラの巣を発見した一行の中に、ザラシュが探索に派遣したプラージュの司祭がいた。彼は巣の中央に突き立った大剣こそ失われた海王の聖剣ラツ・ヴァイネルダフと識別、命からがら、これを持ち帰った。事情を知ったラルハースの新侯爵ジェイガンは、グナイクへその聖剣を持ちかえることを許した。

 かくして、引退を考えていた海王ザラシュは、その力を取り戻したのである。

「ある意味、時代が望んだのだ」

 その言葉を発したのはザラシュの背後から現れたローブ姿の人物である。ザンダルはその身がまとう禍々しい闇の気配に身をよじらせた。

 海王はローブの頭部をはいだ。

「魔道師はさすがに敏感だな。

 我こそ闇の海の海王ウィンネッケ」

 そういう声を発した頭は獣の物となっていた。

 闇の海の魔性に浸食されたのだという。その胴体も異形に変じ、人ならぬものになってしまっているらしい。

 ウィンネッケは続ける。

「龍に仕える魔道師よ。お前がもたらした知らせと宝玉は、この海に波乱をもたらす。

 海の聖剣は復活した海の魔族と戦うため、海王の元に帰還したと言えよう」

 ザンダルはうなずく。

 ウィンネッケは、さらに窓の外に向け、手を振った。

「そして6人目の海王が帰還する」


 グナイクの湾の中央に炎の柱が立った。

 そして、紅蓮の炎が吹き消えると、そこには真紅の海王船が姿を現す。


「あれは、《紅蓮の刃》号。

 炎の海の海王ヨーウィー殿が探索から帰還されたのだな」


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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