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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
23/74

【23】ゲグの玉座(承前2)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


黒の海王


人生は海なり。

他の人々もまた同じ海原にいる。

それを忘れるな。



 アナベルとザンダルは、海を沈んでいく。

「ご安心を」

 アナベルは、水中でささやく。


(これは夢なのか?)


 海面に近い泡立つあたりを抜けると、海上の嵐とは裏腹に、海の中は静かで、動きがなかった。

 海に落ちた衝撃も動揺もなかった。

「すべては、ゲグ様の御心のままに。

 あなた様もわたくしも、あの船乗りたちもすべて、天上の御方からゲグ様への御使いにございます」

 アナベルが話すたびに、その唇から気泡が漏れていく。

 青く薄暗いはずの海中には、船乗りたちを包む七色の燐光で柔らかく照らされている。《宝玉の大公》が稲妻とともに船へと降ろした生ける光、飢えた異形の霊体だ。

「あれは、供物の光」

 アナベルが海中を指差すと、そこを巨大なエイのような何かが泳いでいく。淡く光ったまま、水中に浮かぶ船乗りたちの体は、次々とその巨大な口に吸いこまれていく。

 音はない。

 ただ、静かに燐光が消えていく。


(私も生贄にされるのか?)


 半ば麻痺したザンダルの心の中に、恐怖が頭をもたげる。

「いいえ、大丈夫」

と、アナベルはザンダルに寄りそう。

「あなた様とわたくしは、見届け人。

 《海の騎士》の帰還を祝うのです」

 

(つまり、これもまた《策謀》の内なのか?)


 ザンダルの想いに答えるように、その懐で、スゴンの赤き瞳が輝きを放つ。


「時は来たれり!」

 海の上から銀の光が鋭く海中に射し込み、赤き瞳の放つ赤い光とともに、ゲグの巨体を照らす。

「目覚めよ、我が盟友。

 海の騎士たる者、スボターン!」

 ゲグの巨体は激しくのたうち、海上で向かって突進した。答えるように、波の谷間がぐわっと口を開き、巨体をさらって空中へ放り出す。

 同時に、アナベルとザンダルも、波につかまれ、海上へと引き上げられる。まるで波から風に抱き渡されたかのように、そのまま、嵐の空中へと舞い上がる。

 眼の前は、銀の光に満ちていた。

 《宝玉の大公》が放つ銀の光が、エイのようなゲグの巨体を受け止め、空中に浮かべていた。

「今こそ、赤き瞳を!」

 アナベルがザンダルに言う。

「それこそが封印を断ち切る破封の宝玉」

 ザンダルは、一瞬、ためらったが、もはや腕は勝手に動いていた。

 懐から赤き瞳を取り出し、頭上に掲げる。

 赤い光が大きく放たれ、ゲグを包む。


「目覚めよ!」


 《宝玉の大公》の宣言とともに、エイのような三角の平たい巨体は、青い輝きを放ちながら、光の粒に変わり、その後、青い鎧を着た騎士へと変じた。


「我は目覚めたり」

 青い騎士は叫んだ。

「我は平穏の封印より解放された。

 我は意を決し、戦いに出る」


 その心は突風のように吹き荒れ、ザンダルは意識を失った。

 火龍の狂気にも似ていた。



 目覚めると、見たこともない船員たちがザンダルの顔を覗き込んでいた。

「分かるか? 大丈夫か?」

 船員の背後には、船室の天井が見えた。ゆったりとした揺れ、木材のきしむ音から、今も海上にいると分かった。

「ああ、ここは?」

 ザンダルはやっとのことで、質問をひねり出す。

「海王船だ」

 回答は別の場所から発せられた。

首をひねると、部屋の奥、執務机のわきに若くしなやかな肉体をした青年が座ったまま、ザンダルを見ていた。

「渦の海の海王ルーニク様だ」

と、船員が説明する。

 海王とは、八つの海を支配する船乗りの長たる存在だ。

 南方デンジャハ王国の都グナイクを本拠地とすると聞く。

 渦の海は、確か南方を指すはず。

「学院の魔道師に問う」

と、ルーニクは前置きなしで言った。

「お前の持っていた、この二つの宝玉は一体、何だ?」

 青年の前、執務机の上には、スゴンの赤き瞳と並んで、青く歪な多面体の宝玉が置かれていた。そこから放たれた海王の魔力を感じて、ザンダルはぞっとした。これはゲグ……いや、解放された魔族《海の騎士スボターン》に属する物だ。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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