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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
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【1】幻視

運命の劇場へようこそ


龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。



黄の戦車


我が運命はまもなく終わり、

時代は変わっていくだろう。



 物語の始まりはささいなことだ。

 二人の魔道師が夢を見た。

 魔族と龍王の夢を……


 魔道師学院の最高議決機関、十五人委員会は、二人の魔道師を呼び出した。

 一人は、いまだ階位の低い幻視者。名をラクリスという女性であった。

「私の歎願に声を貸していただき、感謝します」

とラクリスは、十五人委員会が開かれる塔の広間に跪き、頭を垂れた。本来ならば、彼女はこの場に出られる身分ではない。まだ二十代の初め、幻視者としての修行を通火の塔で始めたばかりだ。その証拠に法衣には何の飾りもない。

 十五人委員会の開催場所は、巨大な丸い広間に作られた会議場である。12とひとつの塔の長が壁を背にして座っている。

「顔をあげよ」

 正面、学院の長である堂主アルゴスの横に立ち、議事進行を務める伝奏役のリュジニャンが言う。細身の男で、法衣よりも、執事のお仕着せの方が似合いそうだ。

 顔を上げたラクリスは、ややおどおどしつつも、閉じていた両の目を見開いた。まぶたの下から現れたのは、様々な色が泳ぐように浮かぶ異形の眼球。幻視者の特徴であり、通火の刻印でもある多彩の瞳だ。

「その瞳、幻視の力を十分に宿しておるようだな」

 広間の片隅、頭巾に顔を隠したままの何者かが年老いた声で言った。ここに集うのは、十二と一つの星座の塔を司る魔道師の長たちだ。ラクリスの目には魔族の混沌の気配がぎらりと映る。おそらくは、原蛇の塔を支配する《双面》のレトであろう。かの魔道師は魔族と契約を結び、異形の姿を持つという。

「見えるか、我が姿が」とレトが笑う。「だが、それは今宵の目的ではない。

 汝の幻視せる未来を我らで検討することこそ肝要。

 さて、この者の才、どれほどで?」

「我らは期待しております」と、女性の声が答える。通火の塔の長にして、《薄明の公女》と呼ばれし学院最高の幻視者メアルである。ラクリスからすれば、遥か高位の上司に当たる。

 その言葉はうれしかったが、その才能こそがラクリスをここに引き出してしまった、とも言える。

「もはや儀式的な挨拶は不要」

と、堂主アルゴスが発言した。学院の最高位に座す人物だ。

「幻視者ならば、この時と所は理解しておろう」

 ラクリスは同時に、ラクリスはアルゴスが放った青龍の気配に圧倒された。

 そう、あの時もまたこの圧倒的な気配に倒れた。

 ラクリスの脳裏で繰り返される。

 声にならない恐怖。

 それは歌に乗って彼女の耳元に流れてきた。


「歌の龍王」


 ラクリスはそう叫んで倒れた。

 両耳から激しく鮮血がほとばしった。

 ただちにリュジニャンの指示で、侍従たちが彼女の体を運び去った。

幻視える、ということは不幸であります」とメアルが発言した。「ラクリスは、本来、己が許されぬ場所までたどり着いたのです」

「見逃せぬな」とレトが言う。「龍王の名は」

「しかり」と今まで沈黙を守ってきた戦車の塔の長、黄金の射手リーンズがうなずく。「龍は、我らに対する大いなる脅威。もしも、かの霧の龍王ファーロ・パキールに並ぶ者が幻視に現れたとなれば、それが目覚める可能性を確かめずにはおれませぬ」

「古き伝承によれば」と牧人の塔の長、《紡ぐ者ヴェリ》が言う。「龍王もまた十二と一つの星座に対応するとされます。しかし、我らがその居場所を知るのはわずかに3騎。

 大火龍ジーラ、黒龍王アロン・ザウルキン、霧の龍王ファーロ・パキール……」

「歌の龍王の名は、どの資料にもない」断言したのは、自らも青龍の塔にいたアルゴスである。「巨人の王国以前に封じられたか、あるいは、かのレ・ドーラの戦い以来、復活しておらぬのか?」

 レ・ドーラの戦いとは、魔族帝国時代初期に行われた龍同士の内戦とその後、魔族が行った龍殺しの戦いを指す。

「されど」とアルゴスは続ける。「この幻視は、ただラクリスだけが見たものではない」

 次の瞬間、闇の中から一人の少女が姿を現す。年の頃ならば、おそらく十二、三。その外見は愛らしい野の花のように見える。

だが、十五人委員会の出席者たちは不快な吐息を洩らす。

 なぜならば、彼女はすでに人の子の身ではない。魔族の諸侯、《鏡の公女》に魂と名を捧げ、妖魔の肉体を得た魔女である。《棘を持つ雛菊》エリシェ・アリオラと呼ばれている。

「今宵は、我が師、《召喚者》スリムイル・スリムレイの命に従い、《約定の公女》フリーダ様のお言葉をお持ちいたしました」

 エリシェは悪意のこもった微笑みを浮かべる。

「まもなく、歌の龍王が目覚め、世界は変転の時を迎えるだろう」

「それはお前が幻視たのか?」とアルゴス。

「私が見たのは、歌声の中で眠る龍の姿のみ」とエリシェ。

「スリムイル・スリムレイは何と?」

「我が師は、星の大公を追ったまま、戻りませぬ」

「なるほど、あれはまだ……」と、アルゴスは一旦、言葉を切った。

「では、我らもまた探索の手を広げよう。世界のために」

「世界のために」

 十五人委員会の参加者たちが声を揃えて答えた。


 新たな探索が始まる。




★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/


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