第一話 あり得る世界
自分が思っていたよりも早く、ブックマーク登録と感想を頂きましてありがとうございます。
不定期投稿なので、期間が空いたりするかもしれませんが、できる限り続けていきたいと思っています。
静寂に包まれた部屋の中、しかしこの部屋には、熟睡していた人間が目覚めるには十分すぎるほどの強烈な異臭が蔓延していた。
僕もその例に漏れず、異臭にあてられながら目を覚ます。
(……っ!? 何だこの臭い?)
目覚めたばかりで思考が覚束ず、異臭の正体に気付くのに少し時間がかかってしまった。
しかし、だんだん意識がはっきりとしてきて、記憶の整理がつくと、すぐにこれが何の臭いなのかは見当がついた。
(…………あぁ、そういえば……そうか…。となると、僕は死に損なった訳か……)
自分の行動を改めて振り返り、死ぬことすら満足にできなかったのかと肩を落とす。
(……いや、今はそんな事より、死体が誰かに見つかる前にちゃんと死なないと)
この異臭では、いつ近所の人が気付いてもおかしくなく、生きている内に警察を呼ばれたりすると、急速な治療で、また死に損なうことになるかもしれない。
そう思い至り、どうやって死のうかと考えながら体を起こす。
「……え?」
しかし、体を起こしても、少女も両親の死体もそこには無かった。
しかし、まるでその代わりとでも言うかのように、風変わりな格好をした少年少女の死体が三人分、自分のそばに転がっていた。
(……人数は同じだけど、…まさかね。……ん? ていうかこの部屋どこだ?)
まさか、あの死体が化けたのではないか、と言う考えが一瞬頭をよぎったが、自分が今座っている、このコンクリートのような床から、死体だけでなく部屋自体も、自分がいた部屋と違っていることに気がつく。
改めて、部屋を見渡すが、やはり見覚えはない。
(……そもそも僕はどうやってここまで来たんだ? 流石に、自分で歩いて来たってのは無いだろう。しかし、そうなると連れてこられたのか? ……誰に? この三人に見覚えはないし。……それに、こんなことして誰が得するんだ? 殺人の罪をきせるってのは無いだろう。それなら運び出すリスクの高い僕である必要はないし、僕への恨みにしたって、連れ去ったりせずに、その場で警察なり何なりを呼べばそれで済み、罪を着せるも何もない。でも、それなら他に何が……?)
自分をここまで運び込んだ人物の目的が一切見えずに戸惑う中、ふと、頭の片隅にある可能性が浮かぶ。
(……いや、流石にないか)
その可能性については、実を言えば大分前から気付いていた。しかし、気がついた上で無視したのだ。
なぜなら、それを可能性に含めるのなら、それこそ、死体が化けた可能性だって考えなくてはいけないような、そんな何でもありな世界じゃないと起こりえない可能性だからだ。
(……でも、この格好は、な)
あり得ない。あり得ない……のだが、どうしてもその可能性が頭から離れない。
こんなにあり得ない可能性に、それこそ、普通の人なら笑って切り捨てるだろう可能性に頭を悩まされるのは、目の前に横たわる、三人の死体のせいだろう。
この風変わりな、まるでRPGゲームのキャラクターかのような格好をした死体が、ここは地球ではないと、異世界だと、そう語りかけてくるように感じるのだ。
(……仕方ないか)
あまり気分が乗らないので避けていたが、手詰まりなのでどうしようもない。
(死体あさりは気が進まないけど、ここが異世界だろうと、違ったとしても、彼らの死体は何らかのヒントになるだろうし)
そう覚悟を決めて死体に手を伸ばす。
と言っても、血が付きそうな体は、できれば触りたくないので後回しにして、先に少年の腰にささってる剣を手に取る。
(これは……少なくともおもちゃじゃないな)
剣を間近で見て触り、この剣がとてもおもちゃと呼べるような代物でないのを理解する。
そして、ここが異世界なのではないかという考えが、より一層強まったその時、まるでこの考えを肯定するかのように声が聞こえた。
「アァァァァ」
悲鳴と呼ぶには小さく、そしてかすれた声がして振り返る。
するとそこには、扉すら付いていない、この部屋の唯一の出入り口と、そこから入ってきた、まさしくゾンビと呼ぶにふさわしいような臭いと容姿を持った、そんな化け物が立っていた。
(はぁ、僕は何でもありな世界にいたのか……)
状況を説明してくれる神を出すか迷いましたが、一度神を出すとその後も色々と、文字通り神任せになってしまいそうなのでやめました。
神様って便利ですね。