第6話 ふたつの世界。こちらの世界の次の目的。
「ところで……この馬車の御者はどこに……?」
御者台に御者の姿がない事に気づいたラディウスが尋ねる。
「あ、この馬車は私が一旦町に戻って持ってきたんです。なので私がそうですね」
御者台に移動しながらそう答えてくるアイシャ。
「あ、なるほど……」
アイシャの言葉にラディウスが納得した所で、司祭が、
「アイシャは馬の扱いに慣れていますからね、適任なのですよ」
と、横からそんな風にラディウスに言ってくる。
それに対し、アイシャは「恐縮です」と頭を下げつつ御者台に座った。
そして、
「それでは、出発いたしますね」
という言葉と共に、馬車が走り出す。
だが、その馬車の速度はラディウスが思ったよりも大分遅かった。
――歩けるようになったばかりのセシリアの事を気遣って、あまり速度を出さないようにしている……といった所か?
この馬車、サスペンションの代わりとなるガジェットが取り付けられているから、そこまでガタガタと揺れたりはしないけど、それでも速度を出すのはあまり良くないと判断したのだろう。
うーん……この感じだと街までは結構な時間がかかりそうだな。
幸いこの馬車、場合によっては横になれるようにとスペースがかなりあるし、これなら防御用のガジェットを仕上げられる……か?
そう考えたラディウスは、作成中のガジェットと魔導工具をストレージから取り出した。
「うん? 今度は何を?」
当然の如くラディウスの行動に疑問を抱いたセシリアは、ラディウスに問う。
「ああ、バリア――障壁を即座に展開する魔法を組み込んだガジェットを作っているんだよ」
「それは、万が一の襲撃を考えてですかな?」
ラディウスの回答に対し、セシリアの横から司祭が問いかけてくる。
「まあ……そんな感じです」
さすがに平行世界で今すぐに必要なので……とは言えず、そう答えてごまかすラディウス。
「えっと……伯爵の一派が何かを仕掛けてくる可能性があるって事? なんか、さっきそんな事をアイシャが言っていたけど」
「はい。ここ数日の調査の結果を考えると、その可能性はゼロではありません。……どうも伯爵は、複数の国に跨って活動する闇の魔導組織と繋がりがあったようですから」
セシリアとアイシャがそんな事を言う。
「闇の魔導組織?」
ラディウスは、なんらかの集団と繋がりがあるかのような事を、伯爵が話していたのを思い出しながら、疑問の言葉を口にする。
「正確な彼の組織の名は『ビブリオ・マギアス』といいまして、周辺各国のあちこちで、高性能なガジェットを用いて、様々な破壊工作や暗殺などを行っています。幸い、この国にはまだ現れてはいませんが……伯爵がそこと関係していたとなると、注意が必要です」
と、説明してくる司祭。
――ビブリオ・マギアス……。そう言われると……そんな奴らいたな。
たしか……『魔典』とかいう代物を教義とする集団だったか……?
ってか、よくよく思い出してみると、魔物の殲滅用に俺が作ったガジェットを模倣した物を生み出して、それを人間に対して使い始めたのはこいつらだった気がするぞ……
ん……まてよ? って事はつまり……こいつらさえどうにかすれば、とりあえず強力なガジェットを作ったとしても、あの未来へと繋がる――歴史が向かう可能性は、極めて低くなるんじゃないか?
……うーん、そう考えるとこいつらは排除しておいた方が良さそうだな。よし、こいつら――ビブリオ・マギアスの打倒を、こちらの世界での次の目的とするか。
まあもっとも、この国にはまだいないようだし、まずは集められる範囲の情報を集める程度しか出来ないだろうけどな……
ラディウスはそんな事を心の中で呟き、密かにビブリオ・マギアスの打倒を決意するのだった――
ちなみに『ビブリオ・マギアス』は、魔法の書物――つまり、魔導書という意味です。
ただ……本作では『魔導』は魔工技術――ガジェットに関連する用語なので、ごちゃごちゃになるのを避ける為に、『魔典』としています。
さて、次回の更新は火曜日を予定しています。
相変わらず更新に間隔が出来てしまっている状態が続いており、誠に申し訳ありません…… orz
次の話は、途中でまた向こう側に戻る想定です。今度は戦闘中断はない想定……です。