第1話 新たに生み出したるモノ。幻影の会得。
――あのカードを見せたら、あっさりだったな……
っていうか……この部屋、ロビーに負けず劣らず豪華な造りだな。どの家具も高級そうだ。
しかも、この広さでスイートルームじゃなくて、普通の一般的な部屋だと言うのだから、最早意味がわからん。
……ん? んん? 地下なのになんで窓が? しかも普通に庭が見えるし……。どうなってんだ?
ひとりで泊まるには広すぎる部屋を見回し、窓がある事に気づくラディウス。
何故地下の部屋に窓があるのか、どうして庭がみえるのか、それらがどうにも気になり、窓に近づいてみる。
と、それは窓ではなく、窓のように見える大型モニタのような代物だった。
そこに庭の風景が映し出されていたのだ。
おそらくガジェットの類だろうと思い、とりあえず解析を試みてみるラディウス。
――幻影魔法の一種か……だが、これはまた随分と複雑というか、高度な術式だな……。こんな物を作り出すとか、こちら側の技術には驚かされるな。
……うーん……ちょっとややこしいが、理解出来ない構造ではないな。
よし、せっかくだから覚えておくか。色々と役立ちそうだし。
そんな事を思いつつ、ガジェットの構成を一つ一つ確認し、あっさりとその魔法――術式について理解し、モノにしていってしまうラディウス。
一通り覚えた所で、これを使えばアレを上手く作れるかもしれないと考え、ガントレット型のガジェットや、前日に作ったガジェットのいくつかをストレージから取り出した。
そしてそれらを、時を遡る前に生み出した幾つかの術式と、今しがた会得したばかりの術式を用いて組み合わせ始めるラディウスだった――
……
…………
………………
……2時間後、
「よし、出来た!」
と、ラディウスが誰に言うともなくつぶやく。
2時間ほどかけてラディウスが作り出した物――それは、義手だった。
しかもそれは、幻影魔法の効果によりどこからどう見てもラディウスの腕そのものにしか見えない、そんな代物だった。
――この幻影魔法、思ったとおり素晴らしいな。完璧に俺の腕を再現しているぞ……
うん、これなら向こうに行って、ルティカの腕に併せて少し調整するだけで大丈夫そうだな。
そんな事を思いつつ、ラディウスは伯爵邸へと移動。
そしてすぐさま、ルティカがいるであろうセシリアの寝ている部屋へと向かった。
「あ、ラディウスさん! 司祭様から聞きましたよ! 他の皆さんももとに戻せたそうですね!」
椅子に座っていたシスターが、部屋に入ってきたラディウスに気づき、興奮した様子でそんな事を言いながら近づく。
「あ、ああ、なんとかな。――と、ところで……ルティカの姿が見えないようだが……」
引き気味に手でシスターを制止しながら、室内を見回してそう返すラディウス。
「ルティカさんでしたら、もうひとりの女性冒険者の方と話があるとかで、エントランスホールの方へ行かれましたよ。それより――」
と、何やら話を続けたい様子のシスターに対し、ラディウスは手早くお礼を言いつつ、即座に部屋を出てエントランスホールへと向かう。
「――少し聞きたい事が……って、あれ? どこへ?」
という声が聞こえてきたような気がしたラディウスだったが、今はあえて何も聞こえていない事にしたのだった――
一旦、元の世界へと戻ってきました。
……まさに、さらっと行き来出来るがゆえに、という感じです。