第2話 異なる歴史の世界。冒険者ギルドにて。
「おや、お見かけした事のない方ですねー? 新規冒険者登録でしょうかー? それとも、冒険者へのご依頼でしょうかー?」
やや間延びした口調の若い――セシリアやルーナと同じくらいの年齢と思われる受付嬢が、ラディウスの姿を見かけるなり、そんな風に問いかけた。
「あ、えっと……新規冒険者登録です」
ラディウスはどう答えたものかと一瞬迷ったが、とりあえず登録しておいて損はないだろうと考え、そう答えながら、受付嬢のいるカウンターの方へと足を向ける。
「わかりましたー。それでは、こちらに必要事項をご記入くださいー」
登録用紙とペンをカウンターの上に置きつつ、そんな風に告げてくる受付嬢。
ラディウスはペンを手に取り、登録用紙を眺める。
こちら側の世界使われている文字は、向こう側の世界で古くから使われている物――大陸の各国で共通して使われている物――であったため、読むのも書くのもまったく問題はなかった。
また、登録用紙の記入欄には、出身地などの書きづらい項目は存在していなかった為、ラディウスは特に詰まる事なく手早く記載を終えると、
「これでいいでしょうか?」
と言いながら、受付嬢に登録用紙を手渡す。
「少々お待ち下さいー」
受け取った登録用紙に視線を落とし、内容の確認を始める受付嬢。
項目が多いわけでもないので、すぐに確認は終わり、
「はい、特に問題はありませんねー。最後に犯罪歴の確認をさせていただきますねー。こちらに手を載せてくださいー」
と告げて、カウンターに置かれている黒光りするプレートを左手で指し示した。
ラディウスが言われるがままにプレートに手を置くと、ピコンッ! という電子音のような音が鳴った。
「はい、こちらも問題なさそうですねー。それでは説明に移りますねー」
笑みを浮かべてそう言ってくる受付嬢。
――あの音が判定なのか……。ちょっと変わった仕組みだな。
なんて事を思いつつ、受付嬢の説明に耳を傾けるラディウス。
「依頼を達成するとー、依頼の難易度に応じた―、ギルドポイントと呼ばれるポイントが貯まっていきますー。これを一定数貯めるとランクアップしてー、より難易度の高い依頼を受けたり、指名依頼が入るようになったりしますねー。もちろん、難易度の高い依頼や指名依頼の報酬は、かなり良いですよー」
――実に単純明快なルールだな。報酬は金で支払われるパターン以外にも、現物で支払われるパターンもあるあたりが、少し特徴的といえば特徴的かもしれないが。
……ん? って事は、換金とかも冒険者ギルドで出来るのだろうか?
「なにかご質問はありますでしょうかー?」
と、問われたので、ラディウスは今しがた思った事を問う。
「はい。大体の物は鑑定した上で、鑑定結果に応じたガランをお支払い出来ますよー」
そう答える受付嬢。
ラディウスは、どうやらこちらの世界――というか、この国では『ガラン』という貨幣が使われるようだな……と思いつつ、100セルド硬貨をカウンターに置く。
「これって換金出来ますか?」
「んー? 見たことのない……あ、いえ、どこかで見た気もしますが、思い出せない貨幣ですねー」
ラディウスの問いかけにそう返事をすると、受付嬢はギルドの奥に顔を向け、
「メメメメちゃーんっ! ちょっときてー!」
と、呼びかける。
直後、その声に反応するようにして、
「――そんな大きな声で呼ばなくても聞こえるのです。まったく……。それと、私の名前はメメメメじゃなくて、メルメメルアなのです」
という呆れた声と共に、ギルドの奥にある衝立の裏から、猫のような耳とイタチのような尻尾を持つ、小柄な――幼くも見える――女性が姿を現すのだった。
誤字脱字を発見したので修正しました。




