第1話 異なる歴史の世界。夜の街へ。
――この感じ、やはりあの遺跡そのものだな……
こうやって水路として使うのがメインであったのなら、部屋がほとんどなく、通路ばかりだという構造にも納得だ。
ラディウスはそんな事を考えながら、水路を――水の上を歩いていく。
と、程なくして光が正面に見えた。
――太陽の光ではないな……。もっと人工的な……なにかの照明の光か?
夜……? あるいは地下か?
という、ラディウスの疑問はすぐに判明する事になる。
なぜなら水路を出た瞬間、夜の帳が下りたばかりの近代的な街の姿が、その目に飛び込んで来たからだ。
「……って、マジかよ!?」
あまりの光景に、思わずそんな事を口走ってしまうラディウス。
――レンガを主体としつつも、金属が多く使われているこの感じは、王都にそっくりだな……
しかも、家屋や道には、当たり前のように照明のガジェットが用いられているし、どれもかなり明るい……
いや、時を遡る前の世界では、この手の街は結構増えてきていたか?
……だが、それはつまり、こちらの世界の技術力はあちらよりも20年は進んでいる、という事になるわけだが……
その直後、けたたましい音が響き渡った。
ラディウスは、この音はもしや……と思いつつそちらへ顔を向ける。
それは、川に架けられた橋を、物凄い速度で走り抜けていく列車の走行音だった。
――やっぱり列車の走行音か。
ってか、あの列車……地球――日本の電車に近いくらいの速度が出ているな……
時を遡る前の世界ですら、あそこまでの速度が出るものはなかったはずだ。
う、うーん……これは20年どころではないな。正直、もっと進んでいそうだ。
まあ、カードリーダーもどきがあるくらいだし、そりゃそうだよなぁ……
なんて事を思いながら、周囲に人影がない事を確認しつつ、レンガ造りの堤防に取り付けられていた梯子を使い、川沿いの道へと上がるラディウス。
「しかし……思った以上にデカイ宮殿だな……。正面からだと、あの場所まで行くのも大変そうだ」
川沿いの道から、壁に囲まれた巨大な宮殿を見上げながら、ラディウスはそんな事を呟き、とりあえず宮殿の壁沿いに道を進む。
すると、程なくして宮殿の入口と思しき、黒い金属製の門が見えてきた。
夜という事もあり、門は閉ざされていたが、門の横の門衛所には明かりが灯っていたので、ラディウスは門衛所を訪ねてみる。
が、ドアの所に『宮殿に御用の方は、中の受付にお申し出ください。受付時間:午前9時~午後5時』と書かれたプレートが取り付けられていた。
――これは駄目そうだな……。どこかに泊まって明日の朝、出直すか……?
だが、俺の手持ちの金が使える気がしないんだよなぁ……
そう思いつつ、ラディウスは換金出来そうな場所があるかもしれないと考え、門の前から伸びる商店が立ち並ぶ大通りへ向かって歩き出す。
10分ほど大通りを歩いていくと、『冒険者ギルド』と書かれた建物が見えてくる。
ギルドの看板が、向こう側の世界とまったく同じ物だったので、冒険者登録をしていないラディウスでもすぐにわかった。
ラディウスは、この世界にも冒険者ギルドってあるのか……と、心の中で呟きながら、まだ開いていた冒険者ギルドへと足を踏み入れるのだった――
ようやく外へ出ました! という事で新節です。
諸々積み上がっていた予定の方もようやく片付いたので、普通に毎日更新に戻ります!




