第6話 過去から止まりし者。告げる者。
ラディウスは目の前の光景を見て、何故ここまで拘束する必要があるのだろうかと思った所、鎖を見て気づく。
そこには『グロース・インヒビション』という文字が浮かんでいる事に。
「グロース……インヒビション? 聞いた事のない名前の魔法だな。……この感じは……何かの魔法が常駐しているようだが……。ん……? 成長、阻害……?」
ラディウスが鎖を詳しく調べるように眺めつつ、呟くように言う。
それを聞いた妖姫が、
「皇帝はリリティナが既に死んでいるという事実を認めたくなかったようです。なので、この身体を成長させないようにして、その間に元に戻す――つまり、この身体から私を追い出し、リリティナの意識を蘇らせようと考えました」
と言いながら、周囲の鎖に視線を向け、
「そして、その命を受けた宮廷魔工士たちによって生み出された――正確に言うと、この地殻の遺跡で発見された、老化を鈍化させる魔法を元に、術式を改造して作り上げた物がこの鎖です。成長させない……というか、新陳代謝などの身体に関する部分の時の流れのみを、極限まで遅くする魔法が組み込まれています。まあ……結果的には、皇帝の行動は正解であったと言えなくもありませんね」
そうラディウスに告げた。
「……たしかにそうだな。――それにしても、術式の改造……か。俺以外にも魔法改造が出来る人間がいるというのはなかなか興味深いな」
顎に手を当て、そんな風に呟くように言うラディウス。
「あ、魔法の改造も出来るのですね」
「まあ、あまり複雑な改造は出来ないけどな。……しかし、想像していたよりも幼い感じがするのは、そういう事だったのか」
ラディウスはそんな事を口にしつつ、リリティナの身体を見た感想を心の中で述べる。
――どう考えても、十代前半……地球――というか日本で言うなら小学校高学年……といった感じの容姿だからな……
「そういう事になりますね。まあ、それはこちらもそうというか……思ったよりもお若くて驚きました。その歳であれほどの知識や、ガジェット作成の技術を持っておられるとは……」
「あー、まあ……色々あってな。実際には見た目よりも中身の年齢は高いぞ」
ラディウスはどう説明するか迷い、そんな風に答えた。
間違いではないはずだ、と思いつつ。
「なるほど、そうなのですね……納得です」
深く尋ねる事なくそれだけ言って納得した表情を見せる妖姫。古代時代には老化速度を遅くするガジェットが研究されていたので、さほど不思議に思わなかったというのもある。
それから妖姫はラディウスを見回し、再び言葉を紡ぐ。
「――ところで……先程仰られていた、リリティナの魂が収められているガジェットですが、今お持ちですか?」
「ああ、ここにあるぞ」
そう言いながらラディウスは、リリティナの魂が収められている――というか、収めたガジェットをストレージから取り出し、妖姫に見せた。
妖姫はじっとガジェットを眺めた後、
「これは……間違いなく、私の魂が収められていたガジェットですね。まさか、ヴィンスレイドがリリティナの魂ごと、何らかの方法でそちらの歴史の世界へと転移していたとは思いませんでしたが……」
と、そんな風に言う。
「ああ……たしかにそれは俺も驚きだ」
「はい。……ですが、こうやって戻ってきた事は僥倖と言えるでしょう。ようやく、この身体を元の持ち主に返せますから」
ラディウスの言葉にそう返して笑みを浮かべる妖姫。
「――返すのはいいんだが……どうやってやればいいんだ? 分離するだけとは訳が違う気がするんだが?」
――そもそも、この鎖の方はどうするんだ? っていう問題もあるが……そっちも合わせて何か考えがあるんだろうか? なんだか凄い余裕そうな表情しているし。
問いかけつつ、そんな風に思ったラディウスに対し、妖姫はさも簡単な話だと言わんばかりの口調でこう告げる。
「簡単です。この封魂術用のガジェットそのものを、もう1つ作ればいいのですから」
鎖の効果が分かりづらい気がしますが……要するに、元になった魔法の効果である、「老化を鈍化させる」という効果を強化した……ような感じです。
効果中は、空腹になる事も生理現象が発生する事もほぼありません。
次回の更新は月曜日を予定しています。
そこからは普通に毎日行ける想定なので、よろしくお願いします!




