第5話 過去と現在。隔てし扉の向こうへ。
「なるほど……こういう構造か。この認証の仕組みがこういう感じであるのなら、欺瞞するのは簡単だな」
ラディウスはホログラムに表示される術式を見ながら、そんな事を呟くと、伯爵邸の一部屋を思い浮かべた。
と、即座に視界が切り替わり、ベッドで眠るセシリアの姿が目に入る。
――とりあえずセシリアの方は問題なし、か。
となると……他の面々も対処してしまってよさそうだな……
セシリアとは状況が少し違うが、妖姫の話からすると、基本的には同じ方法でいけるはずだし、あっちのカードリーダーめいた代物を突破をする前に、さっさとやってしまうとしよう。
セシリアへと視線を落としつつそんな事を考えたラディウスは、
「ちょっと地下に行ってくるから、こっちは頼む」
と言い残し、地下へと向かおうとする。
「こっちは教会の人たちに任せておけば大丈夫っすね!」
そう言って当然のように同行する気満々のルティカ。
ラディウスは特に断る理由もなかったので何も口にしない事にした。
ふたりが部屋から出ようとした所で、
「あ、お待ちてください。そうなると部屋の手配をしておいた方が良さそうなので、申し訳ありませんが、ルティカさんはこちらに残っていていただけますか? 私は司祭様や屋敷に残っている方々をと話をしてきますので」
と言って、呼び止めるシスター。
その言葉に、あの人は司祭だったのかと思うラディウス。
「あー、たしかにそうっすね……。わかったっす! 聖女様をじーっと見守っておくっす!」
納得し、軽く自分の胸を手で叩くルティカ。
ラディウスはその言葉を聞き、いやいや、じーっと見守っておくってなんだ……と思いつつも、意図はわからなくもなかったので気にしない事にした。
◆
セシリア以外の者たちも特に問題なく分離に成功したものの、全員衰弱していた為、屋敷の中へと移送する事になった。
「――これで最後……か?」
移送を終えたラディウスが、屋敷の部屋の扉を閉めながら呟くように言う。
「ああ、もう遺跡の牢屋には誰も残っていない」
ラディウスと共に、屋敷内への移送を行った冒険者が頷く。
「まさか、セシリア様のみならずあの場にいた者全てを救ってしまわれるとは……。貴方様には、驚かされるばかりです。いえ、さすがはセシリア様の旧知の者というべきでしょうか」
驚愕と歓心の入り混じった様子で、そんな風に声をかける司祭。
「いえ、単にあれをどうにかする情報を得た――知識があっただけなので、誇れる程のものでは……」
ほとんど妖姫から得た情報をもとに作ったような者だしな、と心の中で呟きながらそう言葉を返すラディウス。
「いえいえ、知識があっても、実際にガジェットを作れるかというと、そういうものではない事は良く存じ上げています。そこはやはり貴方様の技術力あっての賜物でしょう。ゆえに、私は貴方様が英雄の器であると思っていますよ」
と、歓心の称揚の入り混じった様子でそんな風に言う司祭。
そう言われたラディウスは思う。
――時を遡る前にもそんな事を何度か言われたな。
……で、ついついやりすぎた結果があれだからなぁ……
何ともいえない気分になったラディウスは、念の為に別のガジェットを作成するという理由をつけ、早々にその場を立ち去った。
無論、念の為もなにもないのだが、別のガジェットを作る事自体は嘘ではない。
ラディウスはヴィンスレイドが仕入れた素材を拝借し、手早くカードリーダーもどきを欺瞞するカード型のガジェット――要するに偽装カードを作ると、再び監獄へと舞い戻る。
「これで開くはずだ……」
そう呟きながら、偽装カードを装置の溝に通すラディウス。
直後、ピコン! という電子音と共に、装置と扉の上部に取り付けられているランプが赤から緑へと変わった。
「成功したのですか?」
「ああ、おそらくな。……まあ、他に何らかの罠や感知装置が仕掛けられている可能性もゼロではないが……」
ラディウスは妖姫からの問いかけに答えつつ、慎重に扉に近づく。
だが、他に罠や感知装置の類はなく、拍子抜けするほどあっさりと扉が開いた。
そして、ラディウスの目に壁から伸びる幾つもの鎖によって拘束された妖姫の……リリティナの身体が飛び込んできたのだった――
今週は思っていたより余裕がなく、今日分もギリギリ……というか、若干遅れました orz
明日分を書く時間が現時点で明らかに足りていないため、
次回の更新は、明後日の土曜日を予定しています…… orz
その次は日曜日を飛ばして月曜日の予定です(以降は毎日更新に戻る予定です)
週末には諸々片付くので来週開けからは問題ない……はず……です!